『三都メリー物語』⑮

どんよりした厚い雲が空に覆われている。
そのうち激しい雨が幾数の糸のように風と共に降ってきた。木々の葉は風で揺れ、ベランダに干していた洗濯物も大きく風で靡いていた。
仕事を定時に終え、レイが自宅に着いてすぐのことで、慌てて洗濯物を取り入れた。
「また雨かあ」レイは、ひとり呟く。梅雨なのでしかたのないことだが、こうも雨の日が続くと気が滅入ってしまう。立葵という花が先っぽまで咲くようになると梅雨明けと言われている。レイは、通勤のバス停の辺りに咲いている立葵がもう先端まで咲いているのでもうそろそろ梅雨明けしてもいい頃なのにと思う。
レイのロッカーの中に手紙を置いたのは、エレベーターのなかで井上さんと花本さんが手を繋いでいた
あの既婚者の花本さんだとわかった。
レイより二十歳うえの女性の長田さんが教えてくれた。それが本当だということが、話の内容でわかった。花本さんが、上司の島田さんにロッカーの中に手紙を置いたのは、自分ですと言いに行ったらしい。島田さんと長田さんは、今でも密会しているようだ。掃除のおばさんがいつも島田さん長田さんのはなしをレイにしてくるからだ。
でも、なぜ花本さんがそんな手紙を書いたのだろう。
なんなら私も、花本さんに仕返しでもしょうか。
レイは、そう思ったが何もなかったように何時もながら仕事をした。

上司の島田に、
「クライアントに渡すプリントを用意してくれ」と頼まれたレイは用意するが、非常に遅くなってしまい、また島田が亀山に頼んだ。噂も早い仕事も早い体格もいい男性陣から恐れられている亀山さんだ。苦手だなとレイは思う。

最近は、森本ユマとも仕事以外は話をしていない。ユマは最近亀山さんと話していることが多い。花本さんもそうだ、亀山さんと話しているところをよく見掛ける。

その一週間後、梅雨が明けたらしく会社の窓からは太陽の日差しが射し込んで昼休憩でスマホを見ながら食事をしているテーブルに日があたっている。そこへ付けまつげにアイラインを引いて洒落たかつらの掃除のおばさんが、またレイの耳もとに話し出した。
「聞いたところ、稲垣さんと亀山さんと同棲しているらしいわよ」
レイは、耳を疑った。

花本さんは、その事を知っていたのだ。だから私に稲垣さんが迷惑していますと書いたのか。

「それとね、花本さんが今週いっぱいで会社を辞めるらしいよ」と得意気に掃除のおばさんは言う。
辞める前提であの手紙を花井さんは置いたのだとレイは冷たくなったチャーハンを食べた。

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