僕が衝撃を受けたファッションデザイナーたちの話(その3)

ミラノのJil Sanderのデザインスタジオに過去のアーカイブが保管されている一角があります。毎シーズンチームが膨大な量のリサーチを行い、それがアーカイブとして保管されているのですがそこがもう宝の山でして。
コレクションの背景、普段はアウトプットの形でしか見る機会のないものが出来上がるプロセスが垣間見える瞬間って嬉しいですよね。例えば、これ。

50年代のVogueの1ページです。
2012年秋冬Raf Simons最後のJil Sanderのコレクションはこの1枚のアイディアからイメージを膨らませコレクションを創り上げたそうです。ファーストルックをみれば一目瞭然ですね。

表裏で色を変えたダブルフェイスのカシミアのコート、前開きのボタンをつけないことで前端を掴む動作を引き出し、コートを羽織るその所作そのものをデザインしているようにみえます。(あぁ。美しい。。)

ちなみにデザインチームが行う膨大なリサーチ画像に、スタジオのディレクター(当時は前回noteに書いたPatrickと、前Salvatore FerragamoクリエイティブディレクターのFluvio Rigoniの2人が勤めていました)が気に入ったイメージにラベルシールを貼り、さらにラフが気に入ったものにはRマークを入れてふるいにかけられたイメージをチームで共有し、デザインチームがさらに発展させていく。。というのが基本のクリエイティブプロセスだった様です。

R。ついてますね

シーズン初めに見つけた一枚のインスピレーションをコレクションのファーストルックとして採用するあたり、明晰なビジョンをもったラフの仕事への姿勢が垣間見えます。

ある日そんなアーカイブを漁っているときに出てきたあるスケッチに心打たれた瞬間がありました。

前回のnoteで書いたパトリック(https://note.mu/harunobumurata/n/n84b4c812b26b)
と共に主にドレスをデザインしていたMartin Sulzbacher(以下マーティン)というデザイナーのスケッチです。先日ドイツ、フランクフルトで行われていたJil Sander氏個人のエキシビションでも公式スケッチとして展示されていましたが、実はジルさん本人のスケッチではなくマーティンのスケッチです。名前の知れたデザイナーの中にもスケッチを書かないデザイナーはたくさんいますが、サンダーさんもご多分に洩れず。そのビジョンをチームで共有するためのスケッチはマーティンが担当していたようです。

そして私、この人の描く線が大好きでありまして。。

ドレスだけじゃなくジャケットも

シャツも

上手すぎ。。めっちゃいい。

前クリエイティブディレクターのロドルフォ(Rodolfo Paglialunga)もかなりスケッチうまかったですが、ヨーロッパのデザイナー達かなり鍛えられてるなと感じました。日本にももちろん上手な人はたくさんいると思いますが、ヨーロッパにおけるファッションデザインの現場でのスケッチは日本のそれと少し様子が違うように感じました。

思考の道具としてのスケッチ

マーティンのスケッチなぞってみるとわかるんですけど、筆が超早いんです。これ結構ヨーロッパのデザイナー達の特徴で、
僕が衝撃を受けたファッションデザイナーたちの話(その1)で触れたクリスは超丁寧だけど線の一本一本を描く時はすごく早いですし、
僕が衝撃を受けたファッションデザイナーたちの話(その2)のパトリックに至ってはスケッチ一枚10秒とかそんなレベルです。笑(https://note.mu/harunobumurata/n/n9c98132d32d7)
(https://note.mu/harunobumurata/n/n84b4c812b26b)
このスピード感は結構重要なポイントで、アイディアの絶対量が多い分、この世にさらされて磨かれるデザインも必然的に増えていきます。完璧に仕上げるために悩む時間を使うくらいなら、1度投げてチームでブラッシュアップしていこうという考え方が根底にあります。
なのでデザインチームの存在意義はここにあると個人的には思っています。

その時僕らデザイナーにとってのスケッチの役割は2つあって、1つはパタンナーさんや自分以外の人との共有のツールとして、もう1つは自分自身とのコミュニケーション用として(襟ああしようとか、ポケットここにつけようとかアイディアのラフとして)に分けられるですが、経験上このスケッチに更に着た時のビジョンを落とし込むのが上手な人はもれなくいいデザイナーです。(注:俺調べ)

なのでハンガーイラストから始める人はヨーロッパで見たことがありません。雰囲気出ないですしね。つまりそれがデザイナーのビジョンの明晰さを試す試金石のような役割も担っているんじゃないかと思います。

ラフのようなデザイナーはスケッチを描かなくても上で見たようにアイディアを発信する時点で明確なゴールが見えていますし、マーティンのスケッチには最終的にまとわせたい所作そのもののように、有形物としての洋服のデザインのその向こう側、無形の仕草姿勢が見えている気がします。

思考の道具としてスケッチを使いこなして自身のビジョンを投影できるようになれば、デザイナーとして階段を1段登るヒントになるのかもしれません。

次回はデザイナーとしてのスキルとディレクターとしてのスキルの違いについて、CelineでPhoebe Philoの元経験を積み、今シーズンよりジルサンダーのデザインスタジオディレクターとなったAbnit Nijarの仕事をお伝えしながら書いてみたいと思います。

ご精読ありがとうございました。
(現在東京を拠点に自身のブランド立ち上げに向け準備をしています。Instagram公式アカウント harunobumurata_official で新ブランド立ち上げまでのプロセスを公開しています。HPと併せてぜひチェックしてみてください。)

村田晴信



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