僕が衝撃を受けたファッションデザイナーたちの話(その1)
僕が今まで出会って特に影響を受けたデザイナーの一人にChristopher Laszlo(以後クリス)というイギリス人デザイナーがいる。
2015年のJil Sander入社当時、僕はコートやジャケット等のショルダーピースのデザインを担当していたのだが、クリスとはそこで一緒に仕事をしていた。彼は90年代から20年以上Hussein Chalayanの相棒として数々の歴史的なコレクションを作り上げてきたデザイナーで、かの有名なテーブルスカートも彼の仕事だった。このスカート(?)は、着た(??)時にテーブルの脚がバネで跳ね上がり、自動で収納されるようになってるのだと教えてくれた。
(あ、本当だ)
その後NYでFrancisco Costa率いるCalvin Kleinのヘッドデザイナーとして仕事をした後、Raf Simons退任直後のJil Sander氏が戻ってきたJil Sanderで本当に美しいコートやジャケットをデザインしてきた。
(ちなみに紛らわしいが、ブランドのクリエイティブディレクターの移り変わりは下記の通り)
Jil Sander: 1968–2000
Milan Vukmirovic: 2000–2003
Jil Sander:2003–2004
Raf Simons: 2005–2012
Jil Sander: 2012–2013
Rodolfo Paglialunga: 2014-2017
Lucie Meier and Luke Meier: since 2017
クリスのJil Sanderでの最初のデザインは、この2013年秋冬のニードルパンチのラインが施された比翼仕立て(隠しボタン)のダブルのコートだと言っていた。大きなラペルと歩いた時にだけ見える位置に配置されたパキッとしたオレンジのラインが凛々しく美しい。
サンダーさん退任後クリエイティブディレクターがロドルフォに変わっても (Rodolfo Paglialunga。彼についても次回以降のnoteで書こうと思う)クリスの美意識は変わらず、2015年秋冬の幾何学的なラインが織り込まれたこのコート。ダブルフェイスの軽い仕立てに刻まれた深いサイドスリットが歩くたびに柔らかく揺れるシルエット。よく見ると、肩から裾に向かって描かれたラインと、ベルトのバックルの中心を通るラインの位置が繋がっている。
(あ、本当だ)
偶然だねーっとニヤッと笑って見せてくれた。んな訳あるか。
完璧を求める姿勢
Jil SanderというブランドをJil Sanderたらしめる理由はなにか。例えばクリスは1着のフィッティングで2-3時間かけることもざらにある。ポケットの位置や大きさからミリ単位のラペルの調整はもちろん、袖のツイスト、ウエストシェイプの位置を調整したら、娘の反抗期の話をはさんで、またポケットの位置を少し変えるといった具合に。
彼のHussein Chalayanでの哲学的なアプローチに加えて、Calvin Kleinでのミニマリズム的アプローチを経て到達した達人の"細部へのこだわり"は、そこらに転がっているそれとは違う次元の話のように思える。3mmの違いは見た目には変わらなくても、それが直感的に感じる美しさの秘訣であり、その違いそのものをデザインしたのがJil Sanderというブランドの服なのだと思い知らされた。素材の良さや仕立ての綺麗さに加えて、そのプロセスも価値を一部だと認められたら
(そう、美意識に反するものは許さない)
完璧を求めるには土台となる美意識が必要なのはいうまでもなく、それは経験であったり、鍛錬によって徐々に形作られていくのであろうが、その片鱗を間近で見ることが出来た経験は僕のデザイナーとしての姿勢に大きな影響を与えていることには間違いない。この経験が、僕がこれからやろうとしている自分のブランドにどの様に影響を与えてくれるのか自分でも楽しみでもある。
担当は違えど彼とは今も現在進行形で一緒に仕事をしている。それもあと2ヶ月弱。その間もう少しだけ、娘の反抗期の話にでも付き合ってみよう。
(向かって左側がクリス)
他にもここでは素晴らしいデザイナー達と一緒に仕事をする機会に恵まれた。その内の一人が隣に写っているパトリックという男で、長年Raf Simonsの右腕としてクリスとは全く異なるアプローチでJil Sanderというブランドと向かい合っていた。クリスと同じく大きな衝撃を与えてくれたこのパトリックという男と、彼のデザインプロセスについて次回は書いてみたいと思う。
村田晴信
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