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お能「翁 白式」


まずシテや地謡は、風のざわめきや大地の揺れ、木々のさざめきという大いなる自然を担っていた。鈴の音に神を予感し、扇によって神の意は波及されていく。すると世界の随所に神が姿をみせ始める。
執拗に繰り返される音と謡に幻視を得、ついに私たちの眼前に神が姿を現す。これは神事を介し、神との合一を試みる日本古来の人間の姿である。つまり、私たちは神事を介してしかこの世界と向き合うことができないという、神の存在理由をここにみた。しかし私たちはどう足掻いても人間の域を脱することはできないので、神による祝福を仰ぐ。私たちが行う筈だった豊穣の儀は軽やかに強奪され、関わり合えない人間は眼前で拡大されてゆく死と再生を目撃するのみ。
この姿は後世にみられるような神の怠慢でも疲弊でも無く、原始の神の姿。創造による満ち満ちた生に悦びを受けている。
後に続くのは人間が神から受ける恩恵と混乱、錯誤と犠牲が如実に表されている。人間が神によって殺されるのは、全て恩恵に追従した錯乱からではないかと、強く感じた。

(友枝会/国立能楽堂にて)
2022.11.06

(写真は先月「定家」を鑑賞した代々木能楽堂)

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