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珈琲初めて物語【シロクマ文芸部】参加作品

#シロクマ文芸部  「#珈琲と」からはじまる 2度目の参加です。

珈琲と友人の話。今から随分と前の話になる。旧友の家で、私たちは豆から淹れたブラジルを飲んでいた。焙煎したての香ばしい香りを味わいながら、昼下がりのひとときが過ぎていく。そんな時間の中で、友人がポツリとつぶやいた。

「私がはじめてレギュラーを飲んだのは、Muさん(実際は本名名前のもじり、それが学生時代からの渾名だった)家でだったんだよ」
「え?そうなの?じゃあ、私が淹れた珈琲がYの初めてだった訳?」
「そう。苦かったけど、香りが良くて美味しかったんだ。だから、私も自分で淹れるようになったの」

そっか。それは光栄だな。
私がそう言うと、彼女は私を見つめて微笑んだ。

私が珈琲豆の味わいを覚えたのは小学校の頃に遡る。親戚が喫茶店に勤務していて、焙煎したての豆を分けてくれていたのだ。本などをお小遣いで購入し、道具や淹れ方を覚えていった。
友人を自宅に招いたのは中2の頃。手製のアイスボックスクッキーに珈琲を添えて、友人たちに振る舞った。ミルクも添えたのだが「ちょっと苦いなぁ」という感想が多かった。そういう子には砂糖を入れたカフェオレを淹れたことを、今でも覚えている。
そう言えば、彼女、Yはそのまま飲んでいたっけ。そうか、美味しかったんだ。珈琲の良さを図らずも友に伝えることが出来ていたことを知り、心が暖かくなった。

そのYとも、お互いの環境が変わり、私が年始の賀状を卒業したことも手伝って、今は疎遠になっている。けれど、彼女のことだ。しっかりとした足取りで歩いているだろう。いつかまた、連絡を取り合うことも出来よう。
例えそれが叶わなくても、彼女は私の親友であり、1番古い友だ。私がある限り、ずっと変わることなく。唯一「さん付け」をせず、敬称抜きでその名を呼んでいた幼なじみのことを、私は忘れないだろう。

ブラジルを淹れる度に、私はYを思い出す。彼女もそうであってくれたなら、嬉しいと思いながら。


拙稿題名:珈琲初めて物語(友との思い出)
総字数:789字(原稿用紙2枚相当)

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春永睦月
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