忘れられた女の話:【毎週ショートショートnote|お題【沈む寺】参加記事
たらはさん、今週もお題をありがとうございます。貼付記事以下、参ります。
永遠の時はなく、永劫の存在もまた浮世には存在しない。人々を圧する存在をもって、その人心を導いてきたものもまた、過ぎる時の波に攫われ、世から忘れられていく。
ある年の祀りに浜から珍しい魚が上がった。それを食した女は長く命を保ち、「八百比丘尼」と呼ばれるようになる。人々はその力を求め、やがては怖れた。恐れを封じ込め、八百比丘尼の存在は固く封印される。
「わたしは何もしていない。わたしを求めたのも、忌み嫌うのも人たちだけ。わたしは善でも悪でもない。それを決めるのは……」
八百比丘尼とよばれた彼女が身を寄せていた寺は、彼女の存在と共に封印され、記憶の底に沈み、時代の波に流されていく。
女の哀しげな声に、人々は目を閉じ耳を塞ぎ口をつぐんだ。やがて、その姿は庚申講の三猿と呼ばれ、新しく建てられた寺院仏閣の装飾に使われることとなる。
不老不死の人魚と「見ざる、言わざる、聞かざる」の三猿。信仰の基は忘れ去られ、祈りだけが残される。
人々が手を合わせるその向こう、海鳴りのような甲高い声がひと鳴き啼いた。
拙稿題名:忘れられた女の話
総字数:443字
よろしくお願い申し上げます。
以下、比丘尼と三猿のイメージをAI画像にしてみました👇
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