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力のある作品は時を越える 『天保十二年のシェイクスピア』作品全体について
2024年12月9日の初日から東京千秋楽までの間、浦井三世次の熱に浮かされ続け三世次以外のことに触れていなかった。
作品自体も素晴らしいので、2020年(Blu-rayにて鑑賞)と2024年版の演出比較などもしつつ、三世次以外について書き残しておくことにする。
概要・あらすじ
こちらのnoteに東宝ホームページから引用したあらすじを記載したので、詳細はそちらを参照。
ここが好き!ポイント
木場隊長の前口上と名優ぶり
コロナのあおりを受けて志なかばで中止となった2020年の記憶が、観客の脳内に残っている。それを払拭するかのように力強く木場隊長が「帰ってきました!日生劇場へ!」というたび涙が出る。何回日生劇場に行っても、何回観ても泣ける。
毎回、少しずつ変わっていく隊長の口上に、どうか無事に駆け抜けてと祈る客席。これほど観客との一体感のある舞台は、あまり体験したことがない。
語り部役をずっとつとめながら、百姓仲間からは尊敬される木場さん。ラストに百姓として三世次と対峙する場面まで含め、本当に良かった。
大貫王次の身体能力
2020年版の浦井王次とは全然違った魅力を放っていた。特に身体能力の高さ!
二人の王次の違いは何より観ていただくのが分かりやすいので、12月17日の公演後行われたアフターイベントの動画を貼っておく。
大貫勇輔さんの演じる王次を観るまで認識していなかったが、どうも浦井王次、ちゃらんぽらんなのだ。しかもヤンチャ。登場も大貫王次が「正統派王子様のご帰還。吹き抜ける爽やかな風」という感じなのに浦井王子は「ヤンチャ坊主のお帰りよ!ロックだぜ!」という感じ。
王次の登場ソング・「浮気もの、汝の名は女」の中で「おいらが帰ってきたからには花平一家なぞ目じゃねえや!(中略)叩き切るぜ」というセリフが挟まる。この「叩き切るぜ」の言い方が二人の王次の違いを如実に表していて
浦井王次:「たたっきるぜ!!」(手をブンっと振り回しながら)
大貫王次:「たたききるぜぇ…」(女郎のほほを大きな手で撫でながら)
という感じ。大貫王次は品よくスマートな遊び人、浦井王次はヤンチャ盛りの若いもん。ハル王子成分多めが浦井王次と言えばよいかも。
2020年版とは振付がだいぶ変わっていて、大貫勇輔さんの持つ身体能力を存分に活かした見せ方になっていた。
王次、どっちも魅力的。
お光・おさち二役とラストのおさち
お光・おさちを演じる唯月ふうかさんは、2020年からの続投。2020年版を映像で観たときはわからなかったけど、お光としての芝居とおさちとしての芝居を、くっきりはっきり分かりやすく示してくれていた。お光とおさちは基本的な体の使い方が異なるんだな…というのも好きポイントのひとつ。
そして、一番好きなのはラストに三世次と対峙する場面のおさち。
あんなにはっきり拒絶しておきながら、怪物・三世次を人に戻す聖母のような所作と振る舞い。2020年版の映像では感じなかった。唯月ふうかさんは他の演目でも何度かお見掛けしているけれど、今回が一番印象に残っている。
その他の好きポイント
まだまだ好きポイントはあって挙げたりない。だがひとつひとつ綴るエネルギーが足りないので列挙しておく。
お文とお里のデュエット
お里姐さん、みかんをガチ食いする
お里姐さん(『リア王』のリーガン、『マクベス』のマクベス夫人、『オセロー』のデスデモーナが混ざったような役)、難しいと思うのだけどちゃんと成立してるところ
清滝の老婆役・梅沢昌代さんの「しぼった。ぁしぼぉ~ったぁ」
山野靖博さんの「丁か半か~」(賭場の場のボサノバ)
宮川彬良さんの曲ぜんぶ
2020年版との演出の違い
気が付いたところだけ挙げておく(2020年版はBlu-rayしか観ておらず勘違いもあるかも)。
三世次の登場シーン。高橋三世次はひとしきり女郎と男たちのやり取りが終わった後に奥からゆっくり歩いて登場するが。浦井三世次は女郎と男たちがやり取りをする中に混じって行き交う人をねめ回し、時に顔を隠し、いつの間にかその場にいた。
三世次「こんな足になってしまった」のところで足をダンっと踏む
幕兵衛を紋太一家が襲う場面(清滝の老婆登場の場面)のところで釣り糸に垂れ下がった耳をかじってブっと吐き出す三世次
焔はごうごう、窯はぐらぐらの場面で屋根の上に三世次がいる(映像では気づいてないだけかも)
「物事には表と裏があるんだな」という王次。上手に王次、下手に三世次がいる
一幕終わり、屋根の上に隊長がいない(三世次がいる。そして降りてはこない)
三世次、唾吐きかける場面多め
三世次が次第に大きくなる(物理的な体のサイズが大きくなっているかのように見せている)
おさちのラストの場面。復讐なのにまるで諭すかのようなお芝居。
終わりに
あまりに好きすぎて、名古屋で行われる大千穐楽に行くことにしたけれど、いったいカンパニー全体がどこまで進化していくのか、楽しみで仕方ない。
シェイクスピア×井上ひさし。パワーのある作品は時代を越えるということを見せつけられた年末だった。
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