ラッセル・ウェストブルックとトリプルダブル
本日、ラッセル・ウェストブルック(以下ラス)がシーズン通算182回目のトリプルダブル(1試合で、得点・リバウンド・アシスト・スティール・ブロックの5部門のうち3部門で2桁以上を記録)を達成し、オスカー・ロバートソンの持っていた、50年近く破られなかった最多記録がついに更新されました。
◾️ ラッセル・ウェストブルックとトリプルダブル〜トリプルダブルの難しさ〜
トリプルダブルは得点・リバウンド・アシストの3つで達成されることがほとんどです。ラスの場合もそうです。
ポイントガード(PG)は得点とアシストのダブルダブルがよくあります。ビッグマンは得点とリバウンドのダブルダブルがよくあります。それぞれ、ポジションに求められる役割や責任から、そのようなスタッツが記録されやすいようにはなっています。得点は、どの選手でも取れますが、起点になるPGがアシストが多く、オフェンスの終わりにリング近くにおり、リバウンドに絡む機会が必然的に多くなるビッグマンはリバウンドが多くなります。
つまり、アシストとリバウンド両方をこなすとなると、インサイドでもアウトサイドでもプレーできる、相当なオールラウンダーである必要があります。それだけマルチな才能がなければできません。
近年、バスケのスタイルが少しずつ変わった結果、トリプルダブルが記録される回数は増えました。しかし、10年前だとリーグでトップレベルの選手でも1シーズンで数回しか達成しなかったため、トリプルダブルは真のオールラウンダーであるという証明でした。
◾️ ラッセル・ウェストブルックとトリプルダブル〜速攻とリバウンド〜
バスケの仕組み上、基本的にはビッグマンのパワーフォワードやセンターの選手がリバウンドを取り、素早くPGの選手にパスを渡して速攻や、オフェンスを展開するようになっています。しかし、これよりも速くオフェンスを展開できるのが「PGがリバウンドを取る」という形です。ビッグマンがPGを探してパスを出す時間が短縮されるため、大幅に速攻が出せる可能性が高まります。
ラスは速攻の速さが段違いで、かつフィニッシュ能力も高いため、所属チームは常にラスの速攻をメインのオフェンスパターンに組み入れます。そのオフェンスをするためには、ラスにディフェンスリバウンドをとらせる必要があります。周りの選手は、相手のオフェンスリバウンドに来る選手を堰き止め、開いたゴール下にラスが飛び込みリバウンドをもぎとりすぐさま速攻!というのがラスも得意とし、チームもラスに求めるオフェンスでした。そのため、ラスはPGながらリバウンドが非常に多い選手となり、たくさんのトリプルダブルの達成につながりました。
◾️ ラッセル・ウェストブルックとトリプルダブル〜狂気のエネルギー〜
ラスはPGとしてプレーし、多くの時間ボールを触るため、得点やアシストの回数は非常に多い選手です。
ボールに触れる時間が長いと神経を使うため疲労しやすく、またラスは速攻で走り回るため特に運動量の多い選手です。
それだけで十分PGとしての役割は果たしていますが、ここに更にディフェンスリバウンドやそのルーズボールもラスの仕事です。はっきり言ってめちゃくちゃしんどいと思います(笑)
それでも彼がそれらを全てこなし、トリプルダブルの伝説を作ったのは彼の底なしのエネルギーが鍵でした。
Why not?
という精神をもとに常に1試合1試合、一瞬一瞬を全力で生き、全力でプレーすることが彼のモットーです。この精神から彼は狂気のエネルギッシュさを発揮し、躍動しているのですが、彼がこのような思考に至ったのは悲しい過去があったからです。
彼は高校時代にチームメイトを突然、心臓病で亡くしました。その辛い経験から彼は、
「いつ終わりが来るか分からない。ではなぜ毎日を必死で生きないのか?」
という思いに至り、今のような狂気じみたエネルギッシュなプレーをし、二度と破ることができないと考えられていた記録を破ったのです。
◾️ ラッセル・ウェストブルックとトリプルダブル〜おわりに〜
チームにディフェンスリバウンドを取らせてもらっている、という点からラスのことを「スタッツ稼ぎをしている」と批判する人もいます。
また、そのターンオーバーの多さや、シュート確率の低さから「低効率なプレーをしている」と批判する人もいます。
それらは、事実かもしれません。1人であんなにリバウンドをとることも、ボールを持たせてもらえるのもチームの方針によるものですし、ターンオーバーはリーグトップレベルに多く、シュートも確率だけでなく非効率とされるミドルシュートも多く打つのがラスです。
でも僕はラスが大好きです。「スタッツ稼ぎ」と言われますが、NBAで稼ごうとしてスタッツが稼げるならそれだけでその選手は恐ろしい選手です。ターンオーバーの多さは速攻や多少無理でもアタックする彼のスタイルを考えると仕方ない部分もあり、低効率なシュートもそのリズムを崩さないためにチームから許可されています。NBAのチームが許可しているのならば、ラスの良い部分とそれらの部分を比べた時、シンプルに良い部分の方が多いということだと思います。
悲しい過去を背負いながら、常に魂を燃やしてプレーする、ラッセル・ウェストブルック。彼は今後も歴史に残る選手として語り継がれていくことでしょう。