ブリュッセル、20分のロマンス
「キミのことを愛している!」
ブリュッセル空港に向かう電車内で、会って5分のベルギー人に言われた
自然豊かなアンギャンでの音楽祭を終えて、半日ブリュッセルでベルギー人の友人と観光をした。
そのあと、友人とはバイバイしてブリュッセル中央駅からブリュッセル国際空港へ向かう電車へ向かった。
人の少ない車両で、3週間滞在した最後のベルギーの景色を名残惜しみながら愉しんだ。
ブリュッセル中央駅の次の駅、Brussel Noord駅から一人の男性が乗ってきた
「この電車、ブリュッセル中央駅に行く?」
『これはブリュッセル国際空港行きだから、あなたの乗るホームは向こう側です』
「OMG!ありがとう!」
…
電車から飛び降りたがまたその男性が飛び乗ってきた
『?』
「この電車のままキミと一緒に空港まで戻るよhahaha....」
彼は私の向かいの席に乗り、話しだした。
彼の英語はフランス語訛りでとても聞き取りにくかったが、彼は仕事でブリュッセルに来たことや私が音楽祭でアンギャンで過ごして今から、住んでいるウィーンに戻ることを軽く話した。
そこで、ベタ褒めしてきたので(まぁよくあるやつだ…)と笑顔でスルーして窓の外を見ていたが、遂には私のヴァイオリンケースに貼ってあるシールまで褒めだした。
ちょうど携帯のバッテリーを持っていたので、「貸して!」といわれるも、彼の携帯とはタイプが違い充電できなかった…
なんとか私と話そうとしているんだろうが、スッと私の手を握り、次に来た言葉が
「好きだ!キミのことを愛している!」
まさに、冗談だろ!?と思うシチュエーション。まずお互いの名前を知らない。
『面白い冗談ね』とだけ返事をした。
10分、気まずい空気を味わいながら、空港に着いた。
すると、名無しのジェントルマンは「僕がキミの荷物を空港まで運んであげる!」と言ってくれた
それはとても助かる。疲れてるしヴァイオリンも背負ってるのでスーツケースをひとりで持つのはできるなら避けたい。
例えこの人が悪い人でも、3週間分の荷物が詰まった重いスーツケースを持って逃げることはしないだろう。
彼はスーツケースを電車から下ろしてくれて、2階の空港のフロアに行くための長いエスカレーターに乗った。
彼は「キミに連絡先を渡していい?」と言ってきたので、聞かれるよりマシか、と『いいよ』と答えた。が、彼はペンと紙を持っていなかった。
(((あのゲートは気まずい空間が終わるゴール…!)))
ブリュッセル国際空港は私の味方をしてくれた。
航空券を持っていないと空港に入れない仕組みだった。
重い荷物を持ってくれたことに感謝し、『じゃあね!』と永遠の別れを伝え、足早にゲートをくぐった。
だいたいのドラマチックな恋愛はこういうところから始まるだろうけど、明らかに私と合わないタイプだった上に色んなタイミングが合わなかったので仕方がない。イケメンだったけれども。
ここに「ロマンスがうまくいかなかった世界」が存在してしまった、と、ブリュッセル電車旅で思いがけずできた副産物を度々思い出しては笑っている。
名無しのジェントルマンに幸あれ。
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