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『古くてあたらしい仕事』は、小さくて大きな仕事かもしれない。

島田潤一郎『古くてあたらしい仕事』新潮社 2019

新年の1冊目はこの本から始めようと決めていました。

2020年という1年ほど、生きかたや働きかたについて考えた年はなかったのではないでしょうか。

この本の著者、島田潤一郎さんは、33歳のときに一人で出版社を立ち上げました。島田さんが起業するまでの出来事や、本について思うこと、そして仕事に対する考えがこの一冊に込められています。


島田さんの会社は、夏の葉と書いて「夏葉社」。さわやかな香りのする字面の向こうに、ひとり、机に向かって作業する姿が思い浮かびます。
自分が欲しくなるような本をつくることを大切にし、発案から完成、そして営業まで、どの過程にも真摯に向き合う島田さん。

人は本を読みながら、いつでも、頭の片隅で違うことを思い出している。――(中略)――本を読むということは、現実逃避ではなく、身の回りのことを改めて考えるということだ。(p111-112より)


島田さんが出版社を立ち上げたきっかけは、ある一編の詩を届けたいという想いからでした。はじめは、とある特定の人に届けたかったその詩。でも、ほかの誰かにとっても、この詩は必要かもしれない。
本という一見すると多数に向けて発信される媒体を、島田さんは「一対一の手紙」のように、心を込めてつくります。


昔は、魚屋さん、豆腐屋さん、金物屋さん…と、小さなお店が沢山あったものです。お店ではなくても、小さくて、細やかな仕事が、沢山ありました。
気が付けばその多くは、大きな仕事の中に取り込まれ、淘汰されてきました。
「仕事の選択肢が減った」と綴る島田さんは、一つずつ消えていったその職種のもとにいた人たちに想いを馳せます。大きな企業や経済のうねり、どんどんスピードの上がるシステムを、しかし決して否定はしません。

本を営業したのは島田さん、それを販売したのは一人一人の書店員さん、おそらくひと昔前であれば、そこで止まっていたであろう本の連鎖は、SNSやウェブを通して、読者から読者へと繋がり、細く長く続くマラソンのように広がっていきました。


ひとりで仕事をはじめてわかったことは、ひとりでできることなんて、数えるくらいしかないということだ。(p161-162)


編集の仕事は「だれかにお願いをするということ」とし、作家やデザイナー、校正者といった職種の人達と本をつくる。書店をまわって営業し、読者へつないでいく。一人のはずの“ひとり出版社“は、本を好きな友達を見つけるかのように人と関わり、新しい本をつくり続けています。


いつの日からでしょうか、子どもの将来の夢は職業の名前ばかりになりました。夢はもっと自由に思い描くものであっていいと私は思うのですが、もしそれでも「夢=職業」という流れが止められなのであれば、子どもたちが沢山の仕事を選択肢として持つことができますように。

自分であたらしい仕事をつくったっていいんですよね。自分で自分の仕事の場所をつくった島田さんのように。

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