222.終戦を2年早めた天才を描く映画『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』
現代におけるすべてのPCの元となった概念の創出。
人間には解読不可能といわれていたナチス・ドイツ軍の難攻不落の暗号「エニグマ」の解読。
チューリングテストという機械(人工知能)と人間を判別するテストの提唱。
これら多くの功績を残した20世紀前半の天才数学者、アラン・チューリングという人物がいます。
その生涯を描いた映画、『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』という作品を鑑賞しました。
時は第二次世界大戦中のイギリス。
アランの人生を通じて、天才の迫害と生き方、彼の努力と人間性の変化、そして無惨な時代背景を感じ取れた、非常に濃厚な内容の映画となっています。
第二次世界大戦は、彼によって終戦が2年早まったとの声もあるほど。
アラン・チューリングという人物の生き様から、学べること、感じたことがたくさんありました。
ちょっぴりネタバレも含みます。
難攻不落の暗号「エニグマ」に挑む!
エニグマとは西洋語で「謎」という意味です。
暗号の組み合わせのパターン数は1垓5900京通りといわれており、10人が24時間働き続けても、全組み合わせを調べるのに2000万年かかるという代物。
さらに当時のナチス・ドイツ軍は、一日の発信を終えると毎晩0時に設定を変えてしまうので、解読に与えられた時間は実質24時間しかないという絶望的な状況でした。
そんな暗号の解読に立ち向かう一人が、アラン・チューリングという男。
とんでもなく強力な暗号と条件になんども挫けそうになりながらも、機械を造って解読を試みます。
個人戦からチーム戦へと
最初、アランは自身以外の同じ解読チームのメンバーをクビにするようにと話が進みます。
あまりに天才すぎて、周りとの協調もなく、自分ひとりでやった方が効率がいいと判断したのでしょう。
ただ、一人の女性ジョーンとの出会いで対人関係に変化が生まれます。
一人でなく、数人で力を合わせて解読していくことに。
最初はよく思われず、アラン自身も周りをよく思っていなかったところから、りんごのプレゼントをしたところから仲間との関係性が変わっていきます。
自分からの働きかけで、世界は変わる。
天才ながらも不器用なアランが打ち解けたところは、なんだか見ていて嬉しくなりました。
敵わない無情な時代背景
さて、その後も苦戦に苦戦を重ねながら暗号解読は進みます。
進んでいるのかわからないほど地道に、地味に、進みます。
しかしたとある女性のふとした一言で、アランは解読のヒントを得て急速に解読へとたどり着きました。
同時に、アラン・チューリングの秘密も徐々に明るみになっていきます。
同性愛者。
これは、当時のイギリスでは罰則のある罪だったといいます。
何をしたわけでもなく、同性愛者だというだけで投獄です。
後に結婚してパートナーとなるジョーンに打ち明けた際、彼女は動じなかったそうです。
ただ、世間はそうはいきません。
映画では、逮捕されてからの選択肢が二つ。
牢屋に入るか、薬物治療か。
牢屋では仕事ができないと、薬物治療を選びます。
この頃、同性愛者は治療するものだったそうです。
男性ホルモンの投与をするという、今では考えられないようなことが行われていたようです。
薬物治療を始めて一年後、アラン・チューリングは41歳で自殺。
短くも壮絶な人生の幕を閉じます。
多大なる功績から「コンピュータ科学の父」と呼ばれる
あまりに機密情報だったため、アランは家族にも仕事内容を話せなかったそうです。
死後もすぐに広まることもなく、そもそも同性愛者に対する見方もあったので、その恐るべき功績が評価されたのはまるで芸術家のように死後何年も経ってからのことでした。
その当時の時代背景はあったものの、2013年にはエリザベス2世女王の名の下に、正式に恩赦が発効されました。
やがてアラン・チューリングは「コンピュータ科学の父」「人工知能の父」と呼ばれるようになりました。
チューリングマシンという現代のコンピュータ誕生に非常に重要な役割を果たしたことから、「コンピュータ科学の父」。
提唱したチューリングテストというのは、彼が「機械は考えることができるのか?」ということに関心を持っており、人工知能の問題提起やテストの提案などから「人工知能の父」。
戦争に勝つために始めたエニグマの暗号解読だけでなく、今日の世界に大きな功績を残しています。
迫害のような罪を被り、理解者の少ない人生を歩んだアラン・チューリング。
実態は第二次世界大戦の終戦を2年は早めたと評価されていても、その人生は果たして、幸福だったのでしょうか。
世の中を、世界の歴史を変えるほどの偉人は、やはりこうした逆境と共に生きていたのかもしれません。
気になった方はぜひ、映画を観てみてはいかがでしょうか。