今を生きる女の子に届いて欲しい映画
「ジェンダー」「フェミニズム」という言葉がどんどん浸透してきて、今までにないほどの勢いでジェンダー平等の考えが進み、変わりつつある。でもよく言われているように、「まだまだ十分じゃない」。うんざりするようなニュースが今日も目に入る。特にジェンダーをめぐっては、過渡期の大きな「ゆらぎ」の中にいるように思う。
映画や小説は、その「ゆらぎ」を、今を取り巻く空気感を掬い出す。最近、そんな映画を二つ観た。オムニバス映画「21世紀の女の子」とコミックエッセイを実写化した「美人が婚活してみたら」。どちらも21世紀の日本を生きる女の子たちに届いて欲しい。
「21世紀の女の子」
山戸結希監督が企画・プロデュースし15人の監督を集めて作られた短編映画集。テーマは「自分自身のセクシャリティあるいはジェンダーがゆらいだ瞬間が映っていること」。
映画にはそれぞれの監督が捉えた「ゆらぎ」と女の子たちの物語が映し出される。中華料理屋の円卓で女たちが語る「回転てん子とどりーむ母ちゃん」(山中瑶子監督)、3人の絡まり合った心情を描く「珊瑚樹」(夏都愛未監督)矛盾した状態ながら、どこか優しい「セフレとセックスレス」(ふくだももこ監督)...…。
私は東佳苗監督の「Out of Fashion」が好きだった。ファッションの専門学校に通い、卒業後は友人とデザイナーになろうと考えているララが主人公。けれど、ララの周囲は変わっていってしまう。ままならない現実と、それでも持ち続けたいファッション/スタイル(であり、ララの人生でもある)。たとえそれが「Out of Fashion」であろうと、貫き続けるララのシンプルなカッコよさはままならない今を生きる人へのエールだ。
そしてラストは山戸結希監督の「離ればなれの花々へ」。
「地球に生まれたら、21世紀の女の子のための映画を作ろうと思っていたんだ」。地球に生まれる前なのか、どこかの花園で舞う鮮やかなドレス。地球に離ればなれになった一人一人に送る流れるような言葉の数々。幻想的で儚いけれど心にグサッと刺さる。この時点で感傷的になっているのだけれど、さらにここから、「エンドロールアニメーション」(玉川桜監督)へと続く。劇場に映画を観に来た女の子が「映画の中」に入っていくストーリーなのだが、自分と重ね合わせずにはいられない。初めて「スクリーンの向こう側」と「こちら側」が繋がった気がした。スクリーンの中の子に導かれ入っていく女の子は、今まさに映画を観てのめり込んでいる自分の状況とリンクする。
21世紀の監督たちが作った作ったこの映画を、「21世紀の女の子」の一人として観られたことが嬉しい。
「美人が婚活してみたら」
とあるアラ子さんによる同名コミックエッセイを、大久明子監督が映画化。「美人」のタカコは「結婚したい」と思い立ち婚活を始めるが、なかなか上手くいかない。
この映画の前半は、「日本で女性が置かれがちな辛い状況総まとめ」だった。「美人」であるがゆえにタカコには理不尽な言葉が投げかけられるし、タカコの友人ケイコは結婚を「忍耐」だと捉えている。夫は家事をしないし、姑の言うことに従わなければならないから。そして、男性からの上から目線な態度や言葉。さらには、タカコとケイコの仲にまでひびが入る。いやもう無理、しんどい...…と能面のような表情でスクリーンを見つめていた。
けれどラストにはちょっと元気づけられる。最終的にタカコは、自分がどうしたかったのかに気が付く。タカコは色々なものに振り回され混乱するし、婚活を経て大きな成長を遂げるわけでもない。けれど、「ぐちゃぐちゃな過程」も変わらない自分、あるいは変わっていく自分をこの映画は否定しないし、そこが良いと思った。だから「ぐちゃぐちゃ」した毎日を送っている私はちょっと元気が出たのだ。
話せる友だちと自分の時間を大切にしていこう。そして、自分が美味しいと思う方法でごはんを食べるんだ。一人で寿司を食べ美味しいと満足げに呟き、手を振って歩き出すタカコの姿にそう感じた。
作品情報
「21世紀の女の子」
2019.2.8.上映開始 テアトル新宿、刈谷日劇、シネマテークたかさきで上映中(2019.4.5.現在)
「美人が婚活してみたら」
監督:大久明子
主演:黒川芽衣
2019.3.23上映開始 40館で上映中(2019.4.5現在)