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日常に遊びを馴染ませる / 『つみこ』

以前、自分が制作した『つみこ』という遊びを紹介しましたが、この遊びに込めた想いとして「お片付けされない」というのがあります。

そもそも何故「お片付け」をしないといけないのでしょうか。
それはやはり「遊び」と「日常」というのは違う空間であるからではないかと思います。

空間という言い方はおかしいのかもしれません。
電車のレールに例えるといいかもしれません。

日常のレールの先に、遊びというレールはありません。
遊びのレールに乗るには分岐器を作動させて、遊びのレールに乗らないといけないわけです。

で、遊びのレールに乗ったら、また日常のレールに戻らないといけないのです。
さもなければ、それは遊びのレールではなくなるから。
ここでちゃんと日常のレールに戻るというのが「お片付け」だと思います。

お片付けをしないと、日常生活の空間に遊びが混在してしまいます。
それは日常生活において邪魔になってしまいます。
明確に遊びから離れるため、そしてこれは遊びとはっきりさせるためにも「お片付け」というのは大事なものなのかもしれません。

遊びというのはこのように必需品とは違い、レールが違うものですから、遊びだけでなくこのレールの切り替えまでデザインすることも大事になってくると思います。

最近、多くの人が遊んでいるスマホゲームや動画サイトなんかは、このレールの切り替えがものすごくスムーズですね。
それは「スマートフォン」というメディアが普及され、常日頃身に付けるものになったことや、どんな場所や状況であれピピッと操作することができるからです。
ですから「お片付け」もワンタッチでスッと終えられてしまうのです。

逆にボードゲームといったものは、スマホに比べたらレールの切り替えば難しい、大変。
物体でもありますから、ちゃんと片付けないと日常の邪魔になってしまいますし、ちゃんと片付けてしまうと日常からいなくなってしまうので、遊びそのものが忘れ去られてしまったり。

さて、『つみこ』は積木なので、どちらかというとレールの切り替えが難しい分類です。
でもって、遊びの内容もめちゃくちゃ盛り上がるものではなく、とてもしっとりしたものです。
しっとりしているのが悪いわけではありませんが、そんなしっとりとした遊びをわざわざ引っ張り出して、準備するまでやりたいとなる人は少ないはずです。

そこで『つみこ』のような遊びをなじませるに、「お片付けさせない」ということを考えました。
日常生活にそのまま置いてあっても邪魔にならないようにする。
つまり、日常のレールに遊びのレールをなじませてしまう感覚です。

そのために『つみこ』にオブジェという要素を加えました。
観葉植物や絵画のように、部屋を彩るオブジェと同じポジションに立たせるわけです。
『つみこ』の枠を額縁にして、壁に飾れるようにしたアイデアはここからもきています。

日常生活にとても身近な存在になって、時折気が向いたときに『つみこ』と戯れる。
そしてその「戯れた跡」を残したまま日常生活に戻れる。
「戯れた跡」が日常生活を彩るオブジェとなるという、オブジェとしても新しい存在にもなれているのではないかと考えています。

遊びというのはこのレール問題によって、なんとか遊んでもらえるように作り手が必死に考えて、様々な工夫を凝らされています。
数えきれないほどの遊びが、人のわずかな椅子を奪い合っています。
その激戦の結果、遊びというのが過激に「煽る」ようなものも多くなっています。
そうなってしまえば、もはや遊びの内容はどうでもよくなり、遊びの本質を見失わせるのを加速させてしまうのではないかと危惧しています。

遊びってもっと自由なはずです。
そういう想いも込めて『つみこ』という遊びを制作しました。
こういう今の時代だからこそ、落ち着いて、真剣に遊びと向き合いたい。
その答えと問いとして、もっと色々な遊びを制作していきたいと思います。

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