ほんの少しは赦してくれたかな〜突然の和解より〜
長男と次男は長いこと折り合いが悪かった。
小さい頃はとても仲がよく一番の友達だったのではないだろうか。
成長するにつれ、自我も芽生え、友達よりはライバルになった。
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中学校に入るとすぐその兆しは現れた。
その関係は加速をつけて悪化していく。
お互いの一挙手一投足が気に障るようになった。
おまけに「相手のものは自分のもの、自分のものは自分のもの」という、ジャイアン根性も見事に備わってしまっていた。私はもちろんそんな風に育てたはつもりはないのだけど、何故だかそんな感じだったように思う。
この頃の二人の関係は、年頃の兄弟のあるあるだよね!という生易しいレベルのものではないと思うのでエピソードについては割愛させていただくけれど、息子たちをはじめ私もそれ以来ずっと、胸にしこりを抱えて過してきた。
関係性で言えば、長男VS家族の構図のはじまりだった。いやむしろ、長男は勝手に孤立し交わろうとしなかったのだ。この頃以降ずっと孤独だっただろうと思う。寂しかったろう。
ひょっとしたら小さい時からずっと孤独だったのかもしれないなあ…
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幼い頃から真面目で優しい長男は、自由奔放な次男に対し劣等感の塊だったようだ。そして次男に振り回されてきた。
第三者から見れば、お互い様の部分も無きにしもあらずなのだが。
ほんの僅かに小さく産まれたがゆえ、力も次男にはやや劣り、常に我慢していたに違いない。
それに加え、新米ママ(私)の間違った子育て、新米パパ(夫)や周りの大人(祖父母達)の考え方の相違によるしつけという名の下の、ある意味今で言う毒親の虐待の一番の被害者は長男だったのだろう。
なんせ首根っこを捕まえ、押さえつけて、反抗できないようにしていたのだから。
ひとつだけ言い訳を許してもらえるなら、その方法が子供にとっての最善の策だと信じて疑わなかったこと。
ただ一生懸命だったこと。
言い続けていればいつか身に付くと思って、伝え方の間違いに気づかなかった。そこに感情を高ぶらせて。
虐待の親あるあるだ、まったく。
記憶にはないが、私もそうやって育てられてきたのかもしれない。
次男、三男にも同じように接していたつもりだが、性格や相性が違うから受け止め方もそれぞれで、一番ダメージを受けたのが長男だと思う。
しかも二人は超やんちゃ坊主、いや三男もか…
二人はとにかく、じっとしていたことなどなかったし、赤ん坊の時も二人共夜泣き三昧。
幼い頃から手がかかる息子たちであったから、せめてマナーだけはと遊び以外の生活面では、尚更小さな真四角の箱に無理やり納めたがった私。
私のものさしではかり、私の決めたルールが絶対。
初めての子育ての基本は、育児書通りにならなければいけないという理不尽なルールと自分の成育環境に培われた独自の価値観。私の勝手な恐ろしい思い込みは、息子たちを巻き込み夫を巻き込み、義父母を巻き込んでいった。
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息子たちが中学に入り、実家に戻ると夫は単身赴任となったので、父親不在となる。
夫に頼れない時は素直に義父母に頼れば良かったのだが、素直に甘えられない意地っ張りな性格が災いする。
私がちゃんと育てます!
一生懸命やっていれば子供はわかってくれる。
今思えば、なんてバカなのだろうか。
「もっと甘え上手になればいいんだよ。助けて下さいとお願いしたら?」
そんな簡単な事を、当時の私に教えてあげたいよ…
どこにも甘えられない不器用な長男は、深いトンネルの中に入っていくことになった。
一番暗く深く長いトンネル。
それと同時に私もトンネルに入ることになった。
次男はいつの間にかトンネルから抜けていた。友人に導かれ抜け出すことができたのだろう。それに彼は、周囲に上手に甘えることができていたからトンネルもそう長くはなかった。
三男は、今までの反省を踏まえて私は柔軟に対応したので、トンネルらしきものだった。
だからトンネルらしきものをあっという間に通り過ぎた。
長男は何度もSOSを出してきて、その度私はそれに応えた。でも彼が求めていた答えは出せなくて、必ず失敗した。ついつい私の悪い癖が出るのだ。
ただ辛かった話を聞いてあげれば良かっただけなのに、余計なことをつい説教気味に話してしまうのだ。
そしてまた長男は腹を立て、口喧嘩になる…
それから何度も何度もそれを繰り返した。
その度に落ち込む日々。
次男からはたった一度涙のSOSが来たが、その後は良い友人に恵まれたのか、その一度きりだった。
三男は。
今のところない。保育園の頃からSOSを出したのはいつも私の方だったな、そういえば!
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長男の闇は根深かったが、高校生になる頃に少しずつ反抗をするようになってきた。
でもその頃、まだ私は気づいていない。
だから改善もなかった。
言葉で理解しているよと言っていても、全くわかっていないのだから。
それを長男もお見通しなのだった。
兄弟関係もますます悪化していく。
夜中に取っ組み合いになり、義父母と私はオロオロした記憶もある。
三男はその時夢の中。
夫はいない…
知らぬは仏だよ、まったく。
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大学生になり、次男は県外へ行った。
彼は大学生活4年の間にサナギになった。
長男は、まだ青虫で葉っぱを食べていた。
サナギになるには、瑞々しい葉っぱはまだまだ足りていなかった。
社会人になってもまだ、長男は葉っぱを食べ続ける青虫だった。
私は彼らのために何をするべきか、毎日毎日自問自答した。ずっとずっと考え悩み続けた。
日々、衝突を繰り返しながら。
幸運にも、前の職場の先輩や今の職場の先輩がまた素晴らしい方々で、心から尊敬しこうなりたいと思えた。だから少しずつでも考え方を変えていこうと意識していった。
経験をもとに導いてくれたが押し付けがましくなく、私は素直に悪いところを見つめ直すことができた。
私を認めてくれつつ、よりよいアドバイスをいつもしてくれた。
そしてただひたすら話を聞いてくれた。
そう、私にできなかったこと。
私はまわりの人に恵まれた。
そして助けてもらえた。
根気強く待つ。聞く。そして衝突して反省。
それを繰り返す毎日。
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今年になり、ある日殴り合い寸前の出来事があった。
たまたま帰省していた三男をその場に呼ぼうかと思ったくらいだから、まさに一触即発だった。
長男は今まで次男に言いたいことがある時は私を仲介していたのだが、今回私は断った。
「自分の口から自分の思いを伝えたほうが、本音がちゃんと伝わるから、自分で伝えてみて。お母さんが言うと曲がって伝わってしまう。そして、想像ででこう返されるかもしれないと思わないで。何が返ってくるかは話してみなきゃわからないのだから」
そう私が話すと、覚悟を決めて気持ちを伝えに行った。はじめは落ち着いていたものの、だんだんピリピリとした雰囲気になり、冒頭の殴り合い寸前に。だが一足早くにサナギになり蝶になっていた次男は、上手に見事に説得していた。
「昔何度もやられた。今までの気持ちをドローにするためには一度だけお前を殴るしかない。気持ちが収まらない。」
という暴力的な長男に対し、次男は暴力では解決しないことを訴えた。
喧嘩のきっかけは些細なことだったが、次男は過去の自分の過ちを心から謝り、長男の中のしこりは少しだけほぐれたようだった。
その出来事をきっかけに長男はやっとサナギになった。
このとき近くにいた猫といえば…
そわそわとして行ったり来たり。敏感に空気を感じとっていた。どうやら心配だったようで…
それにしても私達家族にとっては大きな出来事であり、大きな一歩前進だった。
と思ったのもつかの間。
ピアノの音でまたトラブルが起きた。次男の弾くピアノの音が耳障りだと言う長男。
ピアノが決しては嫌いではないのに、なんやかんや文句をつける。
ただ、以前とは違い冷静に話し合う様子だった。
後日次男いわく
「俺とは同じ遺伝子だから、ピアノは絶対嫌いじゃないと思う。多分俺が弾くから嫌なんだよ」
何だか妙に納得した。
私は仕事に行かなければならず、後ろ髪をひかれる思いで家をでた。
仕事の合間にも気になった。
しかし帰ると親が思うほど彼らは子供ではなかったようだ。
平和的解決見い出し、何事もなく終わりホッとした。
**
一つ階段を登ったように思われた二人は、おいそれとは仲良しにはならない。
10年以上もコミュニケーションがとれていなかったのだから。
やがて第二弾がやってきた。
近頃の次男にしては珍しく、売り言葉に買い言葉でいい返したからだ。
一触即発、再来。
その時は夫がいたため、私はこっそりHELPを出した。慌てて部屋に来て「もう、やめろ!」と言った夫に、長男は恨みつらみを吐き捨て突き飛ばした。今まで言えなかったことを吐き出したのだ。そしてまた振り上げた拳のやり場を探すように私や次男や夫に当たり散らした。
今度こそ殴り合いに発展するかも…
男の2対1だから、なんとか押さえられるかな。
だんだん冷静さを取り戻した次男は、今の世界の国家関係になぞらえて、落ち着いて長男に話しかけていた。私は私で
「昔の事はただ謝ることしかできない。もうその時には戻ってやり直せないから。これから、失敗を繰り返さずどうしていくか、どうより良くしていくかが大事なんじゃないかな」
半べそで伝えてみた。
その言葉に次男も賛同してくれた。
そして、長男の顔つきは変わっていった。
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さて夫はどうしていたか?
見守ってくれてはいたが何もしてしなかった(笑)
でも父親がこの人で良かったと思った。
一緒になって、火に油を注ぐような人だったら、結果は違っていただろう。
いつだって夫はこの立場だったのだ。昔から変わっていなかった。
なのに私は、私の父親の理想像を押し付けた。
一度だけ彼になじられたことがある。
長男との関係がこじれた時
「俺にはオレのやり方があった。お前に言われた通りにしたがやっぱり間違っていた!」
本当に私は未熟ものだ。
**
ある日のこと、お昼休みに帰宅したら次男の声が聞こえていた。ONLINEで誰かと会話しているのかと部屋を開けたら、そこにはなんと相向かいになって話をしている長男と次男の姿があった!
今の自分の状況、考えてる事、これからの事。
静かに話をしていた。
嬉しさと驚きのあまり、何をするべきか忘れてしまってウロウロしたあと、とりあえず夫と三男にすぐにLINEをした。
二人共、心底驚いていた。そして三男は最後に「良かったじゃん!」と返してきてくれた。
義父母にも急いで報告した。
いびつな家族関係は、少しだけ元にもどりつつある。よその家族では普通かもしれないが、我が家にとってはこの上ない喜びとなった。
**
夕方帰宅すると、今度は二人で将棋をしているではないか!
10数年の年月を埋めるように…
まるで小学生の頃の二人を見ているようだった。
盆と正月が一度にきた感じ(笑)
二人共、やっと蝶になることができた。
今のままではいけないと、ずっと思っていたに違いない。お互いにきっかけが欲しかったのかもしれないな。
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二人共社会人ではあるけれど、まだ草葉の陰で羽を休め、羽ばたく準備をしている段階だ。
三男はサナギ。
今はしっかり力を蓄えて、羽ばたいて飛んでいく時がきたら微力ながら支えてあげたい。
こんな私を子供たちは、
長男は
少しは私を赦してくれているだろうか。
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