花嫁の手紙
お父さん お母さんへ
この前は列席お疲れ様。
この前の結婚式では花嫁の手紙は読まなかったけど、結婚式を終えた今、私のこれまでの正直な気持ち伝えさせてもらうね。
端的に言うと、私は家に戻ると窮屈で子供の頃のみじめな思い出が蘇ってきてすごく辛い。
式当日、お父さんは怒鳴らなくて、ゲストやスタッフと喧嘩しなくて、人を殴らなくて、お父さんなりに機嫌やコンディションは良さそうだったけど、これってそもそも花嫁が心配しなきゃいけないことなのかな?って疑問に思った。失言は多いし、夫が涙ながらに頑張って謝辞を読んでる時にバカにしたようにクスクス笑っててものすごく不愉快だった。
あの時、そういえば実家って一生懸命頑張る人をバカにする風潮が色濃かったよなと独特の文化を思い出したよ。
勉強を頑張っても「お前にはあんな高校受からない」って言ってきたり、部活を頑張っても「決勝は所詮無理だったろ笑」って言われた時のこと、今も鮮明に覚えてる。私は不器用だったけれど、その不器用さゆえに人一倍頑張れる根性はあると自負している。きっと、私が一生懸命頑張ってきた姿は見てくれていなかったんだよね。私は精一杯の努力をバカにされたりからかわれたりする体験にあまりに慣れすぎていたと思う。そして、これが当たり前になっているこの家のDNAが流れてると思うとゾッとした。
結婚式の準備段階から式の最中もずっといつかお父さんが突然キレて怒鳴り散らして場が騒然としたらどうしようってずっとハラハラしてたよ。
自分の人生で最も大切なイベントの一つなのに家族のことで心から楽しめずにこんな心配事抱えてる自分が情けなかった。
お見送りの時も最後の最後にばあちゃんとおじさんに「女なんだから大口開けて笑うもんじゃない」とか「旦那さんの言うことちゃんと聞かないとダメだ」とかよりによって晴れ舞台で説教されて、この人達私に恥をかかせにきたのか、マジで何しに来たんだろうと思った。
お義父さんとお義母さんにも見られたし、すごく惨めだったよ。晴れ舞台なんだから声かけるんだったら、「綺麗だったよ」「あなたらしくてよかったよ」って言ってほしかった。こういう窮屈な価値観や発言がこれまで私をずっと縛り付けて可能性を狭めてきたと思うし、ありのままの私をいつまでも受け入れてもらえない家なんだなと改めてよくわかった。
口が大きくて元気に笑うのが私だし、性別やハンディキャップや固定観念に縛られず自由に強く生きる私でありたいと思ってるけど、この家はありのままの私を受け入れるんじゃなくて、いつも古臭い田舎の自分よがりの価値観押し付けてくるだけただった。
お義父さんとお義母さんは「息子はどこに出しても恥ずかしくない子だからよろしくね」って言って私に託してくれたけど、お父さんとお母さんは「この子はバカで勝手な娘ですみませんね」って言うだけ。
私ってお父さんとお母さんの2人とってそんなに出来損ないの娘だった?私は、子どもなりにやっぱりお父さんとお母さんにどこか認めてもらいたくて頑張ってきたつもりだったけど、最後まで認めてもらえなかったね。
子どもは家や親を選べないけど、夫の家にお邪魔すると、うちと違いすぎてそのギャップに苦しむことが多々あるよ。
お母さん、あなたはもう忘れてるかもしれないけど、幼稚園の頃、お母さんが書いてくれた私へのメッセージブックを隠して私がもう見れないようにしたの覚えてる?お母さんはいつも怒ってばかりで怖くて、それでもやっぱり親だからお母さんが好きで、隠れてこっそりお母さんが書いてくれたメッセージを読んでなんとかお母さんの愛情を再確認して安心して泣いてたけど、泣いてる私を見たお母さんは、恥ずかしかったのか怒ってそのメッセージブックを押入れの布団の奥に隠したよね。
そして、お父さん。幼稚園の頃、父の日にプレゼントで作ったネクタイかけを捨てられたこともあったね。お父さんにプレゼントしたんだけど、数日後にゴミ箱にあっさり捨てられてるのを見て、子どもながらにショックだったよ。それ以来は、父の日にはお父さんに感謝の気持ちを伝えましょうとか、手紙を書きましょうとか学校でよく教えられたけど、これも捨てられるんじゃないかと思って私だけ筆が進まないないことも多かったよ。結婚式の花嫁の手紙もまたバカにされたり軽んじられたりして、私の気持ちが踏みにじられるんだろうなと思って書こうと思えなかった。
他にも、学校で自分の名前の由来を親に聞いて発表する機会があったんだけど、お母さんもお父さんも「えー、そういう宿題やめてほしいよね。季節にちなんでつけたって言っとけば?」ってあしらってきたこともあったね。周りの友達は親にしっかり由来を説明してもらえてることを授業中に知って「私ってお母さんとお父さんにとって、その程度の存在なんだ」って悲しくなったこともあった。
子どもの頃は、お父さんとお母さんがもう怒鳴りませんように、殴りませんようにってお祈りしたり自分なりに本で調べておまじないを試したりしたけど、今考えると異常な幼少期だったと思う。
自分の存在価値を見失いそうになる事案は実家ではよくあって、すごくコンプレックスで未だにフラッシュバックが起きて泣きたくなる日も多いよ。ずっと誰にも相談できなくて20年以上、私一人で抱えてきたけど、こういう不安定な精神基盤の上でこれから夫を支えたり、将来子どもを育てていったり、仕事をさらに頑張ったりしていくのはそろそろ限界かなと思っている。
結婚は門出の日でもあるので、私もそろそろこの辛かった思い出を手放してお父さんとお母さんのもとに返したいと思って今日は伝えさせてもらいました。
もうお父さんとお母さんには私を支配することはできないし、私はこれから自由に生きていくね。
さようなら。
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