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わたしだけの卒業式

急に思い出した話があるので綴ろうかと思う。

それは、わたしが中学校の卒業式を特殊な形で参加した事。

「みんな」は午前中に終わっている卒業式。 

「わたし」は卒業はするけれど、出席する予定がなかったので、それはサプライズだった。

遡ること、あれは中学三年生に上がった頃。環境の変化が最初は刺激的で楽しかったが、次第に適応出来ない事に気が付き、心が先か体が先か?心身ともに人生で一番しんどい時期であった。

今思えばよくある思春期故の病だったのでしょうか?鬱状態だったのかな?とも考えられるが、当時はそんなに冷静ではなかった。

家の外へ行けばぐっしょりと空気が重た過ぎて、家に帰る頃には倒れ込みそうになるくらいの疲労感があった。
しかし原因は不明。
何となく上手く行ってない気がするとか、適応出来ていないようなストレスはあったが、別に誰かに深刻なダメージを与えられた訳では無い。

それでもわたしは空白の一年間を過ごさざるを得なかった。
ほんの少しの自信と勇気があれば何か変わっていたのだろうか?と思うけれど、あの頃そんな気力は沸いてこなかった。

幸い、中学二年生の頃の仲良しグループが手を差し伸べてくれ手紙を届けに来てくれたり、夏休みには遊びにも行けたりと、それでもまだ恵まれていたのだと思う。

その頃のわたしは本をよく読んでいた。
ノートに言葉を沢山綴っていた。
一生分くらいの考え事をしていた。
英語のノートに気付けば詩を綴っていた。
夜中と朝方の狭間に訪れるいちばん静かな時を感じるのが好きだった。
昼夜逆転生活で体調が良くなるはずは無いのだが。
いわゆる不登校、半引きこもり生活に突入する時にこれからは死んだように生きよう―とそっと心のシャッターを下ろしたが、しょっちゅう体調が悪く、ツワリのような気持ちの悪さを抱えながらも何とか生きていた。

そのような調子だったので、わたしはとても学校へ行ける状態ではなかった。
気分転換に明るい色に髪を染めてみたりしたけれど自信は持てなかった。
一応受験生という立場ではあったので机には向かっていた。
勉強をしていたのか、散文を書いていたのか…何とか卒アル用と受験票用の写真を(黒髪に戻してから)学校ではない指定の場所へ撮りに行った。
何とかかんとか進学が決まり、出席日数が足りていなくても卒業を認めてもらえる事になった。
それは母が学校へ打診して何度か話に行ってくれたおかげだと思う。

そして卒業式当日―。
わたしは家で友達を待っていた。卒業式を終えてから仲良しメンバーが六人くらい遊びに来てくれる事になっていたのだ。
卒業式を終えたばかりの友達が家にやって来る。
そしてお菓子を食べたりしているうちに写真を撮ろう!という事になり最初はわたしだけデニムのワンピースを着ていたけれど、せっかくだから制服で。と言われるままに着替えた。
久しぶりに袖を通す制服。人生の中で珍しいショートカットのわたし。あの頃は自信がなかったけれど、見た目だけはとても爽やかな少女だったと思う。
外で写真を撮っているうちにみんなで学校まで来ていた。
母が、せっかくだから挨拶して行こう的な事を言い、あれだけ抵抗のあった学校へ久しぶりに足を踏み入れた。
気付けば体育館へ誘導され、中へ入ると、拍手が聞こえてくる。なんと、学校の先生が大勢揃っていてこれから卒業式を始めると言うのだ。
友達も一緒に並んで参加してくれた。
広い体育館で生徒の椅子は一列だけだけれど、わたしだけの卒業式が行われた。
卒業証書授与と校歌を歌ったり校長先生がわたしだけへの言葉をエールを送ってくれた。
こんな小さな村でも何でもない首都圏のとある中学校で、ただ一人問題児?のようなわたしの為にわたしだけの卒業式が行われるなんて―今思えば本当に有り難い事だ。

友達の一人が箱ティッシュを裏にして『どっきり大成功』と書いたものを見せてくれた。そしてその子だけが泣いた。その箱ティッシュの一枚を取り鼻をかむ。
わたしは特に泣いていなかった。
( ちなみに結婚式ですら期待を裏切らずに?泣いていない)
その子はいちばんの仲良しではなかったが、一度も同じクラスになった事がないわりに、合同体育などで絡んだりして仲良くなった子。
一緒にカラオケに行った思い出がある。一度わたしが歌っている時にいい所で、間違えたフリをして消された事がある。絶対にわざと。おそらく高得点が出そうだと思い焦ったのだろう。それもこれも微笑ましい思い出―。

卒業式の後、みんなで音楽室に寄った。
久しぶりの音楽室は少し埃っぽく音楽室特有の匂いがして懐かしかった。しばし思い思いに楽器をいじって遊んでいた。わたしは教科の中で音楽がいちばん好きだった。
それから学校の校庭を何故か何周か走った。
マラソンとプールが大キライで常習的にサボり体育の成績を1に落とされたわたしが、こんなに楽しく走っている不思議。
その瞬間はすごくキラキラしていた。お天気が良くて制服のままみんなで走って、まるで今まで普通に時を過ごしていたかのように。

当時は感謝の気持ちがありながらも、こんな特別な体験にもどこか引け目を感じていたけれど
とても貴重な体験をしたのだ、と今は思う。
これはわたしだけの良い思い出。


#創作大賞2024
#エッセイ部門




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