忘れてしまうことは無くなることではない
向暑はるは既に大学生の思い出を忘れ始めている。
いつものようにスマホを開くと、Googleフォトが3年前の写真をおすすめしてきた。
これどこで撮った時の写真だっけ。
どこかの商店街を向暑はるともう一人が並んで歩いていて、その背中姿が映されている。
ということは別の誰かが撮った写真である。
そこから唯一分かることは、すごく楽しそうであること。
数分考えてやっと思い出せたことは、写真に映っている商店街は地元から電車で1時間ほどかかる場所ということ。
この商店街は地元の学生の遊び場みたいなところで、ショッピングやデートでよく利用されていた。
ということはショピングやデートの写真かと考えたけど、向暑はるはそこで買い物をしたことはないし、隣にいる人もお付き合いしていた人ではなかった。
心のモヤモヤが解けなかったので、隣に映っている人に久しぶりにラインをした。
ちなみに「友達」ではなく「人」と表記するのは、プライベートであまり遊んだ記憶がないから。
数時間後、久しぶりという文字と驚いたようなスタンプが送られてきた後、答えが送られてきた。
どうやら免許合宿で中学ぶりに再開して、免許取得後に二人の共通の友達の車を使って適当にドライブした時の写真らしい。
あーそういえばそんなことあった。
確か向暑はるの運転が下手くそで運転開始数分で交代させられた。
でも中学の時の話に花を咲かせてめちゃくちゃ盛り上がった。
その日の一枚。
なんだか楽しい思い出を忘れてしまっていたことに少しだけ悲しくなったけど、忘れていた「だけ」で良かった。
忘れてしまうことは無くなることではない。
花が少し枯れてしまっているようなもので、また水と日光を与えれば綺麗に花が咲く。
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