いつもの最寄り駅まで①
2階建てアパートの2階角部屋。
いつものようにドアを開けると、乾燥した冷たい風がコートの中に潜り込んでくる。
玄関の先には階段があって、そこから360度向きを変えると、今日もランドマークが”シンボル”として堂々と建っているのが見える。
いってきますと心の中で呟く。
階段を下っている間に、鍵をコートのポッケに入れて、もう一つのポッケから無線のイヤホンを取り出す。
沈黙が多い冬のこの時間に、初めて向暑はるに音をもたらすのはこのイヤホンと左手のスマホである。
今日はNICO Touches the Wallsが最初の音になった。
アパートを出た最初の道は、狭くて車は通れない。
二方向に分かれていて、右に曲がればゴミ捨て場、左に曲がれば最寄り駅へつながる。
今日は仕事なので左へ進行方向を変える。
右手には丘一つを切り崩したような壮大な墓地が見えるが、どうやらかの有名な首相の”弟”が眠っているらしい。
本人じゃねーのかよと最初はツッこんだけど、向暑はるも弟だから、今となれば親近感さえ感じている。
突き当たりを左に曲がれば一つ目の公園と私道が見えてくる。
そのちょっと手前の路地で右へと進行方向を変える。
実はこの曲がった先に、横浜全体を見渡せる景色があって、
ここは”ただの向暑はる”から”社会人向暑はる”へと気持ちを切り替えるのはもってこいの場所なのである。
クイーンズスクエアが今日もみなとみらいの一部となって埋もれていた。
そして急勾配という言葉が似合う階段を一段ずつ慎重に下る。
上京する前に横浜は坂が多いと聞いてはいたけど、予想以上に上っては下っての繰り返しで、”荒地の魔女”だったら多分汗垂らしてどんどん老けていく。
なんだこの伝わりにくい例えは。
ここで突然だけどクイズ。
世界中の上り坂と下り坂、多いのはどちらでしょう。
チクタクチクタク
ようやく坂を下り終えて、帰りには疲労を背負いながら上らなければいけないと思うと、朝から憂鬱な思いになる。
あ、つまり正解は”同じ”である。
ちなみに向暑はるはこの答えを理解するのに1分くらいかかった。
今日初めての信号が見えてきた。
ここで、一曲目が終わる。