読書感想〜ラブカは静かに弓を持つ〜
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ラブカは静かに弓を持つ
安壇美緒
[あらすじ]
著作権使用料の権利の調査のため、音楽教室に潜入することになる橘。
橘には人を信用できなくなる出来事があり、それをきっかけにチェロをやめてしまった過去がある。
そんな橘と音楽教室で出会うチェリストであり講師の浅葉や仲間たちとの関わりの中で揺れ動く橘。
過去のトラウマを乗り越え、前に進むことができるのか?
[感想]
帯にあった「スパイ✖️音楽小説」のスパイ要素は、思ったよりハラハラするようなバレちゃったらどうするの?な感じはなかったです。
しかし、潜入した音楽教室で築いた人間関係の温かさを裏切ることへの罪悪感やこれが「偽り」の関係ではなく、現実であって欲しいと願う微妙な心の揺らぎの描写は素晴らしかった。
結果的に全てが露呈し浅葉に罵られ、教室での関係性を全てブロックするが…
橘が気付くシーンがあります、仲間がアンサンブルの発表をする直前に彼等と目が合った時
『彼らが橘の言い分も聞かずに軽蔑の眼差しを向けてくるはずがなかった。それをどうして一方的に過剰に恐れてしまっていたのか』
人間関係の恐れは自分が生み出していた幻想だと。
それを幻想だと確証できるのが信頼なのだと。
そしてラスト、浅葉は橘を許しはしていないが受け入れます。
音楽教室での師弟の入れ替えは可能か否かの問い
師が弟子を
弟子が師を信頼しているのであれば、入れ替えは否。
人間関係も然り、互いに信頼し合える者同士の関係性に変えは効かないと言うこと。
感動で涙が止まらない、という訳ではないですが
ゆっくりと、読者である私の心をほぐしていってくれる感覚でした。
心が疲れた時に癒してくれる作品、素晴らしかったです。