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小説 老人と赤い花柄の傘2 二雨
「じゃあ、管理職だったんですか?」
私が老人に聞くと遠慮がちに答えが返ってきた。
しかも、話を聞けばかなりの大手企業だった。
「部長まではいきましたね。
ワタシなんて務まるかなと思ってましたけど、何とか定年までは頑張れました。」
「凄いですね。僕なんてまだまだ主任止まりですよ。しかも、大手なんて羨ましいです。」
私の言葉に「まだ、お若いから大丈夫ですよ。」と老人は言う。
私は若いとは言う歳ではないが40歳は老人にはまだまだ若造かもしれない。
それから、老人と私は時々この公園で顔を合わせるようになった。
おだんご髪の娘さんと可愛らしいおじいちゃん子のボクとも何となく挨拶するようになった。
ある日の暖かな冬から春になるぐらいの日に老人にあの公園で会った。
「こんにちわ。今日は暖かいですね。」
私はいつものベンチに座ると老人に言った。
「何だか春なんだか冬なんだかわからないですね。この季節は何を着たらいいんだか。」
老人は穏やかな声で答えた。
「あっ、今日は赤い傘持っていないですね。
午後からにわか雨が降るってニュースで言ってましたよ。」
私の言葉に老人は「そうですね。」と言うと続けて言った。
「赤い傘は娘がね。ワタシがボケちゃったんじゃないかって心配したんで持ってこなかったですよ。だから、これ。」
私に老人が見せたのは黒い折り畳み傘だった。
私が「なるほど。」と相槌を打つ。
「道具は使ってやらないとね。家内もそう言ったましたから。でも、娘の言うことも一理あるしね。若い人には従わないとね。」
何故か老人はどんどん小声になる。
私もつられて「ですね。」と小声で言うと、二人で顔を見合って笑った。
私は自分の亡くなった父親のことを思い出した。
何となくだが似てる。
だから、親近感があるんだな。
私はそう考えながら老人の話に耳を傾けた。
老人の話を聞いているこの一時だけが私の唯一の安らげる時間になっていった。
そして、そんな時間もあっと言う間に数ヵ月が経っていった。
じわりじわり春夏がやってくる頃私はあの公園に暫く行く事が出来なくなった。
見渡すとマスク姿ばかりになっていた。
外出自粛、ソーシャルディスタンス、生活はどんどんと変わり始めた。
そう、誰でもが体験した事のない見えない敵との戦いが始まり暗い時代に向かっていく。
新型コロナウイルスっていう得体のしれない敵。
老人とはそれきりになってしまった。
三雨🌂に続きます。
老人と赤い花柄の傘お読み頂き有り難うございました。
どなたかの目に止まりますように。
三雨も宜しくお願い致します。
お時間ございましたら、一雨も宜しくお願い致します😊↓一雨です
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おまけ 愛犬かえでのアップ (^ー^)