銀行員の仕事   (営業係)_5_県外店_1

その後、田中は、県外の支店に転勤になった。
地方銀行は、地元の県以外にも支店がいくつかある。
県外店の仕事は、法人への融資がメインであり、年金獲得のノルマからは解放された。
田中は、営業課に配属された。

転勤初日、入れ替わりで県内店へ転勤になった先輩行員と、引継ぎで顧客訪問を行なった。
ほぼ、法人先であり、担当エリアは広く、車で営業活動を行う。
1日の訪問件数は10件程度であった。

まず驚いたのが、集金先の多さである。
本来、顧客が支店の窓口で行う、「売上金の入金、普通預金から当座預金への振替、振込伝票、手形取立」の預かり、等
1先あたり約30分はかかる。
午前中は集金業務をこなし、昼前に支店に帰る。そこから、午前中に預かった現金、伝票類を整理して、預金係にオペレーションを託す。

昼食後は、法人への営業活動を行う。
田中は、転勤前、法人融資の経験が無かった。決算書の読み方も知らなかった。
社長と会っても何を話せば良いかわからない。
営業成績は、さっぱりだった。

ある日、営業チーフから
「このA社の新規取引をやってみろ。
B社の社長の紹介だ」と言われ、決算書3期分を渡された。
B社は支店の優良取引先であり、
田中は喜んだ。
だが、決算書の読み方を知らなかった
為、とりあえずA社を訪問した。

A社の社長は、すぐに面談してくれ
無担保で1000万円の融資申込を受けた。

融資ファイルから、過去に営業チーフが作成した協議書を抜き出し
A社へ何度も通い、みよう見まねで融資の協議書を作成した。

※融資ファイルとは
 融資先1社ごとに、決算書、企業内容、過去の協議書、稟議書を保管してあるもの
※協議書
 融資を行う際、担当者が
「資金使途、企業内容、担当者の初見
 」を記載し
「営業係、融資係、支店長」の順に回覧する。支店長の決裁がおりれば、融資が出来る。ただし、融資金額が大きくなると(当時、田中が在籍していた支店の支店長の決裁権は、無担保1000万円まで)本店審査部長決裁となる。

※稟議書
 協議書で支店長の決済が降りれば、
 協議書をもとに融資係が作成する。
 内容は、協議書と同じである。

協議書の決裁がおり、「これで初の法人融資が出来る」と安心していた田中だが、すぐに支店長室に呼ばれた。

支店長は、黙ったまま、決済書の売掛金の欄を指先した。
「???」
田中は何もわからないまま、支店長室を後にし、A社へ融資の協議書が決裁されたことを伝えに行った。
A社の社長は、喜んでくれた。

だが、この後、悲惨な目にあうことになる。

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