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観光経済復興への道筋
オーバーツーリズムと観光公害
元NHKディレクターで城西国際大学教授を務める観光学者の佐滝剛弘氏の『観光消滅』(中公新書ラクレ)で示す日本の観光産業の実態は荒んだものだと指摘する。著者の佐滝氏はNHK時代に世界各国の文化遺産を訪れ、数々のテレビ番組の制作に携わったのち、観光学者に転身した異色の研究者だ。巷には日本が「観光立国」だと言われているが、本質は全く違っている。
佐滝氏は勤務先がある京都で混雑に出くわさなかったものの、鉄道会社に要請してなるべく電車を使わないようにしていた。だが、雨の日に通勤する際に市営バスに乗ると、外国人観光客でごった返していた。かなり気疲れするものだったという。佐滝氏は最も人気を博す京都を例に挙げ、オーバーツーリズムの実情について、こう指摘する。
< 2024年3月に、日本在住のフィンランド人ジャーナリストにインタビューを受ける機会があったが、彼の関心事ももっぱら京都のオーバーツーリズムであった。
その象徴的な弊害は路線バスの混雑である。鉄道網が脆弱な京都では、多くの観光地がバスでしかアクセスできない。清水寺、銀閣寺、金閣寺、大徳寺などへの鉄道の駅から歩くのは難しい。しかも、それぞれの寺院は住宅地に囲まれたような場所にあり、主要駅と観光地を結ぶバスは同時に市民の足でもある。
筆者は2018年から2021年までの3年間、京都の大学で教鞭を執った。転機が良ければ自転車通勤だったが、雨が降ると市営バスを利用していた。そのため、観光客、とりわけ大きなスーツケースなどを持った外国人観光客と同乗する機会が多かった。彼らの荷物がスペースを取ってより窮屈になるうえ、不慣れさゆえに下車する際の運賃の支払いトラブルでバスがなかなか出発できなかったりして、市民が(そしてひそかに私も)いらつく場面によく出くわしたものである。
しかし、これらは「目に見える」観光立国のデメリットであり、本当の問題は目に見えづらいだけにもっと深刻だ。それは、「京都人が京都に住めなくなる」という弊害がある。>
観光公害として問題が浮上したのはゴミの散乱や外国人のマナーなどが挙げられるが、京都の場合は特に路線バスが常に混雑することが市民の頭を悩ませていたようだ。佐滝氏が滞在中、雨の日に市営バスを利用しなければならない日に限って外国人観光客が押し寄せたバスの中で窮屈な思いをしたことは否めない。「京都人が京都に住めなくなる」ことは明らかだ。市民の暮らしを損なうことはあってはならない。
インバウンド需要は回復傾向
とはいえ、悪い話ばかりではない。コロナ禍が落ち着いた現在、日本のインバウンド需要は徐々に回復している。
JTB総合研究所の観光統計調査によれば、2024年9月時点で訪日外国人観光客数は2,872,200人である。前年(2023)と比べると31.5%上昇した。3000万人に到達するには来年(2025)以降のアフターコロナの状況によるものと見られる。
特に最も増えたのは韓国人である。当然の結果といえる。中国や台湾などの東アジア系の訪日外国人観光客も前年と変わらないが、その他の国で増えつつあるのはドイツ、ロシア、オーストラリアだと統計に示されている。
円安の影響
ここまで訪日外国人観光客が増えてきた理由はやはり円安である。佐滝氏は続ける。
< コロナ前、2019年との為替レートを確認する。1米ドルは同年3月の約111円から、159円(2024年6月)となった。30.2%の円安である。アメリカからの旅行者は、これまで1110円の商品を10ドルで買っていたが、今なら6ドル98セント程度で買える。しかも、同じものを(もしあれがだが)アメリカで買おうとすると、20~30ドル程度する可能性が高い。もし、たくさんあっても困らない商品なら、1個で我慢していたものを3~4個は買える。交通費や宿泊費も同様である。為替レートの変化は、米ドルだけでなく、ユーロが同時期の比較で125~126円→170円、シンガポールドルが80円→118円、韓国ウォンが0.10円→0.11~0.12円と、韓国は少し穏やかだが、他の通貨でも同様の円安を記録している。
国際的な価格比較でよく引き合いに出されるビッグマック指数(世界規模で展開しているマクドナルドのビッグマックの価格を比較することで、各国の物価や経済力を知るための指標)では、2024年1月の価格が日本は3.04米ドルとなっている。これは韓国4.11ドル、タイ3.78ドルに大きく水をあけられている。日本に近いのあベトナムの3.01ドルである。
中国は日本より高く(3.47ドル)、永らく欧州の最貧国グループとして知られていたルーマニアでも日本より高い(3.42ドル)。中東諸国やラテンアメリカの国々よりもマックの商品が安く食べられるのは、ここで暮らす私たちには一見朗報に聞こえる。しかし、私たちは日本の物価に慣れきっていて、ビッグマックを「安い!」と思う人はあまりいない。いまや日本は、欧米はもちろん、東南アジア、中東、ラテンアメリカよりも「安い」国に成り下がってしまっている。必ずしも日本が魅力的だからインバウンドで賑わっているわけではなく、もし今度為替レートが大きく円高に振れたらどうなるのか。様々なシミュレーションをしておく必要がある。>
来年(2025年)ドナルド・トランプ氏が再び大統領に就任することでドル高・円安が進行することになる。いましばらく続くことだ。ただ「安いニッポン」の状況が続くと、外国人観光客にとっては安く済むが、国内産業は輸入依存企業を中心に収益を確保できなくなる可能性が高いと言える。
第一生命経済研究所の最新レポートにおいて、ライフデザイン研究所研究員の柏村佑氏はトランプ再選後の経済動向にあたって日本経済とこじんの生活経済の行方について、次のような懸念を示す。
< 円安の進行は輸出関連企業の収益改善につながり、特に自動車・電機・機械などの製造業では円換算での売上増加が期待される。一方で、輸入原材料に依存する製造業では、円安によるコスト上昇が収益を圧迫する可能性が高い。
個人の生活面では、ガソリン価格の上昇、食料品価格の値上がり、海外旅行費用の増加など、消費者物価の上昇を通じた実質所得の低下が懸念される。特にトランプ政権が掲げる10~20%の包括的関税措置が実施された場合、輸入品価格の上昇を通じて家計の購買力が一段と低下するおそれがある。>
上記の統計データによる予測が見込まれることになる。
最大の難題は人口減少
観光産業に打撃を与えるものは気候変動、自然災害による交通網の断絶、地域紛争などの要因が挙げられるが、最も注力すべきことはやはり人口減少だろう。佐滝氏は人口減少問題を過小評価してはならないと警鐘を鳴らす。
< 日本の人口減少の状況をデータで確認しておこう。直近の2023年の1年間の出生数はおよそ72.7万人となっている。しかし、この人数は今の人手不足とは関係ない。なぜなら今はまだ全員赤ちゃんだからだ。では20年前、今の20歳はどのくらい同級生がいるのだろうか?2003年の出生数は112万3610人であった。もちろん、成長の間に事故や病気で亡くなってしまった人もいるし、この間に同じ年生まれで日本国籍を取得した外国人もいるだろう。しかし全体から見たら多くはないので、この際無視する。
20歳は、高卒、大卒、専門学校卒など最終学歴による違いはあるが、おおむね社会に働き手として出ていく平均的な年齢と考えていいだろう。つまり、今およそ112万人が労働市場に参入する候補であると言える。さらに20年さかのぼり、現在の40歳の人を考えてみよう。1983年の出生数は、150万8687人である。つまり、今働き盛りである40歳に人口に比べ、ちょうど今社会に出ていく人は38万人あまりも減っているのである。定年が引き上げられ65歳を超えても働く人が多くなっているとはいえ、若い働き手がこれだけ少なくなってるのだ。様々な業界で人手不足が叫ばれているのは、このように労働市場に投入される人数が大きく減っているからである。しかも20年後は、これがさらにまた40万人ほど減る。>
次世代に日本の未来を託す子どもや若者の数が年々減っている状況は見逃してならない。観光産業において人手不足は難問だ。では、なぜ観光業界で人手不足になっているのか。一因としてはエッセンシャルワーカーの低待遇と長時間労働にあるという。佐滝氏は観光バスの運転士を例に出し、労働環境の劣化に警鐘を鳴らす。
< 一例を挙げると、観光バスの運転士の平均年収が、403.9万円(2021年、厚生労働省調べ)。またホテル業界では、2022年の調査で292万円。給与所得全体の平均給与が458万円であることを考えると、経済的な魅力はかなり低い。しかも、運転士で言えば、人の命を預かるという責任の重さや、労働時間の長さ、休みの取りにくさ、自動化どころか仕事の一部を省力化することも難しい状況を考えると、人材獲得競争を勝ち抜けるのか非常に心もとない。>
一般論として日本の企業の99.7%は中小企業である。大手企業は文字通り平均年収より上の収入を得ているが、平均年収より下の収入しか貰えないブルーカラー職は経済的な魅力を持たないため、人材を確保できない。こういった状況が続くと観光バスを運営する企業は廃業を余儀なくされてしまい、交通手段が少なくなってしまう。実に悩ましいと思う。観光産業を日本経済の起爆剤とするならば、従事者の待遇面や休暇の取りやすさなどの労働環境の改善や組織的体質を改変しなくてはならない。日本政府が積極的に乗り出すべき実態だ。
大前研一の観光経済復興試論
暗雲が漂う観光業界であるが、それでも「観光産業は伸びしろがあるため、日本経済を立て直す希望となる。」と主張する実業家がいる。
経営コンサルタントの大前研一氏は『日本の論点 2025-2026』(プレジデント社)で日本の観光政策を進めるために「観光省」を設置することを勧めている。その理由についてこう語る。
< 日本の観光GDP比(観光産業がGDPに占める割合)は、コロナ禍前の2019年でわずか2.0%だ。それに対して、スペインは7.3%、イタリアは6.2%、フランスは5.3%と、世界の観光立国は日本の倍の5%以上を観光で稼いでいる。日本が秘めているポテンシャルを考えると、GDPの10%近くを観光産業で稼いでもおかしくはない。訪日外国人旅行者6000万人を達成できるのであれば、観光と富裕層の移住を併せたインバウンドの年間消費額は15兆円のポテンシャルを持っていると言える。(中略)
自国民が少子高齢化しているのだから、無理に地方創生にこだわるよりも、観光政策の企画・立案を独立して担う「観光省」を設置して、法改正も含めて国家として全面的に取り組むべきなのだ。>
大前氏の大胆な提言は説得力があるが、「観光省」を設置することには無理があると思う。日本国民がこれ以上省庁などの公共機関を増やして無駄に税金を費やすことを拒否するからだ。観光政策を主軸とした経済成長戦略を構想するのであれば、日本にあるどこかの省庁を削る必要がある。国民の同意を求めない限りは実現しないだろう。
アンダーツーリズムの推進
さらに大前氏はオーバーツーリズムの対策について次のような提言がなされている。
< 訪日外国人旅行者の呼び込みとオーバーツーリズム対策の両立という、一見矛盾する2つのことを同時に解決する方法がある。それは、まだ観光地として注目されていないローカルな穴場地域への旅行である「アンダーツーリズム」の推進である。
学生時代から日本中を歩き回り、最近もバイクで各地を回っている私の見た「日本」には観光地としてのポテンシャルを秘めた地域がまだ数多く眠っている。それらを観光地化して整備すれば、訪日外国人を新たに呼び込む力になるだけでなく、オーバーツーリズムに悩む観光地と平準化を図ることができる。まさに一石二鳥だ。
「日本人の誰も注目していない辺鄙なところになぞ、外国人はやってこない」と考えるのは、世界の観光事情を知らない人の発想である。今、世界で人気があるのは、「何もない」ところを開発したリゾート地だ。元々欧米の富裕層は、名所旧跡や観光施設で混みあう街よりも、何もなくて一般の観光客がやってこない地域でのんびりと長期滞在することを好む傾向がある。今、そのスタイルは世界的に広がって、この20~30年で新しいリゾートが続々と開発されている。トレンドの牽引役となっているのは、スーパーラグジュアリーリゾートホテルの「シックスセンシズ」だ。創業者はインドの大富豪ソヌ・ジウダサニ氏で、妻エヴァにモルディブの島を1つプレゼントした。1995年、その島に建てたリゾート「ソヌバフシ」(夫妻の名前「ソヌ&エヴァ」と、モルディブ語で青い鳥を意味する「フシ」を組み合わせた名前)がシックスセンシズの始まりになった。
ソヌバフシはただの島であり、砂浜に続く青い海と空以外、何もない。チェックインで渡される布袋には、「No News, No Shoes」の文字が書かれている。チェックアウトするまでこの島で新聞は読めないし、靴はその布袋に入れてフロントに預けなければならず、島内ではずっと裸足で過ごすというわけだ。施設は客室とレストランだけである。客は何もないところで、何もしない時間を過ごす。それが最高の贅沢なのだ。>
これはラグジュアリーツーリズムという新しいカタチの観光である。我々一般市民にとって目から鱗の話だ。世界の富裕層はモルディブの島のような「何もない」場所にゆったりとした時間を堪能できるリゾート地を求めているのだ。実際に、大前氏は日本にも景色を楽しめるために地域の特性を活かした場所があると言う。
< 景色を楽しんでもらいたいのであれば、その地域の特性を活かすことが大切である。
長野県軽井沢町は豊かな緑に囲まれている。ただ、そこに立派な高原、リゾートを建てるだけでは弱い。あの地域の一番の眺望は、昼間に見える浅間山の雄大な姿である。他のリゾートと同じようにディナータイムに景色を堪能しようとしても、真っ暗で何も見えない。
私が軽井沢にリゾートをつくるのであれば、遅めのランチを売りにする。日本の宿泊施設は15時チェックインがスタンダードだが、チェックインは11時にする。まずはスパで汗を流してもらい、13時や14時から浅間山を眺めつつゆったりコース料理を楽しんでもらう。それくらいの柔軟な発想が欲しい。>
大前氏の視点は大事なことだと思う。
ラグジュアリーツーリズムのすすめ
軽井沢のリゾート地のほかにも魅力的な場所はまだある。ジャーナリストの山口由美氏は『世界の富裕層は旅に何を求めているのか』(光文社新書)の中で世界各国のラグジュアリー観光を実践する例を紹介している。ここでは本書から島根県海士町の取り組みを挙げることにしよう。山口氏はEntôというリゾートホテルについて次のように述べる。
< この海士町に2021年、開業したのがEntôである。
地元の自治体による第三セクターの宿泊施設が、改装増築と独創的なネーミングを冠した新しいコンセプトにより、ラグジュアリーリゾートに生まれ変わった。
Entôとは文字どおり「遠島(遠い島)」の意味。さらに「島流し」という意味もある。また、最後の一文字「o」は地球、その上の「<(サーカムフレックス)」は、Entôのある島前の水平線に浮かぶ島を表現している。隠岐は地質学的にも興味深いところで、隠岐ユネスコ世界ジオパークになっている。宿は、その拠点としての機能もあわせ持ち、ミュージアムスペースもある。
中ノ島までは、松江市の七類港または境港市の境港から高速船で約2時間、フェリーで約3~4時間。高速船は冬季運休の季節運航で、冬はフェリーも運休することが多い。現代においても、空港のない中ノ島は本当に凄い。だが、その遠さこそが魅力になっている。
Entôの開業により、明らかにこれまでと異なる客層が島を訪れるようになったという。ラグジュアリーリゾートでの滞在を目的とした首都圏からの旅行者だ。世界における知名度はまだまだだが、日本的な魅力に満ちたアイランドリゾートは、今後必ずや世界のラグジュアリートラベラーを引きつけるに違いない。>
山口氏が取材したラグジュアリー観光の成功例を見れば、日本の観光政策にとって台風の目になるに違いない。世界の富裕層たちがこぞって日本のリゾート地を求め、お金を落としていただければ経済効果は期待できるという前向きな視点を持っておくべきだと思う。
京都と大津を拠点とする共創型観光というアイデア
冒頭の佐滝氏が懸念を示した京都のオーバーツーリズムは関西地方で解決しなければならないほどの喫緊の課題である。国際観光都市として世界中に知れ渡っている今、解消するためにはどうすればよいのか。
そこで、私はあるnoteの存在を知った。セールスマンの御丹珍氏のnote『成瀬が教えてくれない大津観光案内』シリーズのマガジンで綴った旅エッセイだ。尾張在住でありながら滋賀県大津市を愛してやまない人物である。御丹珍氏は大津こそ京都のオーバーツーリズムを解消する誇り高き場所であると強調する。次のような提言は興味深い。
< 大津市が観光地として日本一過小評価されていると書いたのは、決してオーバーではない。過去には、ラブ ジャパ!~外国人のお住み着き!~「滋賀・大津編」と題して、京都に観光客を奪われる大津の知られざる魅力を、外国人居住者から聞き出すNHKのテレビ番組が作られたほどだ。出演者達は目を輝かせながら好んで大津に住む理由を語っていた。「滋賀・大津編」とあるが、同タイトルのシリーズ番組は他には作られなかった。
このように大津をこよなく愛する人が決して少なくないことから、過小評価の原因は「一般にほとんど知られていない」ことに尽きる。(中略)
激混みの京都が嘘のように、大津にある観光名所は空いている。京都の喧騒から逃れて一息つきたい方は、次の旅の行き先を京都のすぐ隣にある大津にしてみてはいかがだろうか。京阪大津線(京津線・石山坂本線)で大津の日常を満喫するのがおすすめだよ。>
※太字は筆者強調
重要な視点だと思う。例えば、外国人観光客が京都の混雑ぶりに辟易しているところを目撃したら案内することを勧めているのだ。If you get tired of sightseeing in Kyoto, I will recommend all of you to go for sightseeing at Ostu. Ostu is the beautiful city in Shiga Prefecture, because it's near the Lake Biwa. There is a terrace of Lake Biwa that you can see a wonderful view of it.(京都の観光巡りに疲れましたら、大津を訪れてみることをお勧めします。大津は滋賀県で最も風光明媚な街として知られています。琵琶湖に面し、その一望を楽しめるテラスもございます。)のような具合だ。
滋賀県にスポットライトを浴びるようになった理由は小説家の宮島未奈氏の『成瀬は天下を取りに行く』『成瀬は信じた道を行く』(新潮社)が爆発的なヒット作になったからだ。最近は漫画版も刊行した。
ただ、御丹珍氏は「宮島は地元民目線を大切にしているらしく、大津の豊富な観光資源を余すところなく紹介するスタンスではないように感じられる。」と指摘する。大津を愛するが故の盲点だといえる。
大津にラグジュアリー観光のスポットを増やすことができれば、京都のオーバーツーリズムが改善され、二大拠点とする「共創型観光」が確立できる。それが実現するか否かは京都と大津の人々の判断になるだろう。
観光振興を邪魔する地域の「ボスゾンビ」の存在
厄介事として地方創生や観光経済復興にとって弊害となっている存在に目を向けなくてはならない。それは各地方に実在する「ボスゾンビ」のことだ。
地域エコノミストの藻谷浩介氏と実業家の山田圭一郎氏が観光立国にとって最大の問題が「ボスゾンビ」だと言う。
< 「地域のボスゾンビ」とは、地元の有力な観光事業者で、一族からはしばしば政治家などが輩出することもある「現状維持勢力」のことである。自分たちの商品や魅力に磨きをかけることなく、「もっとPRすれば客は来てくれるはずだ」と信じて、旧来型の観光の仕組みに安住し続ける人たちである。「比喩的に言えば、自分では何もしないけど他人の邪魔だけはする、半沢直樹の敵みたいな人」(藻谷氏)。
バブル崩壊以降、有名観光地の多くは凋落傾向に苦しんできた。そうした現状を打開しようと、地元の事業者の中には若手を中心に、新しい試みをしようと考えている人たちも出ている。それが功を奏して復活を果たした観光地も多くある。
しかし、そうした若手たちの試みを苦々しく見ていて、事あらば潰してやろうと考えている「地元の名士」たちも沢山いたのだ。その「地元の名士」が現状維持を図り、改革の芽を潰しにかかったとき、「ゾンビ」と化するわけである。>
あれから8年が経ち、ボスゾンビについての話題は取り上げることがめっきりなくなったが、未だに観光復興の妨げとなっている地方のボスゾンビたちが強大な権力を振りかざして、地域の和を乱すような行動を阻止しようとする。政治家たちとの癒着が強く、「変えないほうが楽で合理的」という発想の持ち主があちらこちらに点在している。このような人々を退場させない限り、観光経済復興は無に帰すことになる。
観光のあり方について視点を広げる
私たちのように直接観光業に携わっていない読者は事の大変さを理解できないかもしれない。しかし、テレビや新聞などのニュースで日々目にするのは訪日外国人観光客のマナーの悪さやゴミの散乱、京都の舞妓さんの追っかけまわしなど礼儀をわきまえない外国人の行動である。この報道を見る度に嫌悪感を抱くことになりかねない。それでも、日本人も外国人も日本での旅行を気持ちよく「体験」したいと切望すると思う。
観光にまつわる良い取り組みやアイデアを共有できれば、地域経済に潤いを取り戻し、消費者側も思う存分旅をしたいという気持ちがむくむくと湧いてくるのではないだろうか。そのためにも観光のあり方について世界の事例を含めて視野を広げていくことが大切だと考える。
<参考文献>
佐滝剛弘『観光消滅 観光立国の実像と虚像』中公新書ラクレ 2024
大前研一『大前研一 日本の論点 2025-2026』プレジデント社 2024
山口由美『世界の富裕層は旅に何を求めているのか』光文社新書 2024
<参考サイト>
光文社新書note インバウンドの新トレンド「ラグジュアリー観光」とは何かを「体験」を軸に明らかにするー冊/『世界の富裕層は旅に何を求めているか』プロローグ公開
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