アナウンサーの本選び
元NHKアナウンサーでフリーとして活躍する登坂淳一氏が出版区の『本ツイ』に登場した。アナウンサーという立場からの本選びは彩りのある人生を送る上で示唆に富む内容だった。
大らかでダンディーな人柄と滑らかな語り口で、日本と世界のニュースについて解説する姿は目を見張るものがある。近年はクイズ番組に出演する機会が増えた。
登坂氏が選ぶ本とはなんだろうか?
文学を愛するアナウンサー
登坂氏はかつてNHKのアナウンサー時代に国際情勢や日本社会についての知見を広めるべく、時事内容が濃い本に目を通していた。月に20~30冊程読んでいたという。しかし、現在は子育てに専念するため、書店に行く機会を控えるようになった。細切れの時間を有効に活用しながら、読書に充てているそうだ。
そんな中、登坂氏は小説などの文学作品をこよなく愛する。カメラマン担当の青木氏は登坂氏に対し、これまで読んできた小説について聞いてみた。
会話のやり取りを聞きながら、私は登坂氏の文学に対する情愛が籠っていることが理解できた。アナウンサーの役割は視聴者に向けて原稿をとうとうと読み上げるだけではない。品格のある言葉や誠実な話し方で相手の感情に寄り添うことが何より重要なのだ。動画を拝見する限り、登坂氏は文学的教養が豊かな人であることはお分かりいただけるだろう。
NHKは定期人事異動が多い。関西や北海道で勤務していた登坂氏はその土地にまつわる文豪や小説家の作品を手に取り、風土や県民の人情を代理経験してきたのだと思う。その積み重ねが人々から絶大な信頼を寄せる「名アナウンサー」となったのではないか。そんな気がする。
言葉に気を配っている登坂氏でも、話す時は「~とか」を連発している。アナウンサーでも「書き言葉」と「話し言葉」を使い分けていることがよくわかる。ただ、私自身は「~とか」という表現を好まない。ギャルのような口ぶりに思えてならないからだ。無論、ギャルの存在を否定するわけではない。しかし、ホワイトカラー職の上級クラスに就いていた登坂氏の話し方を聞いていると、品の高さがありながらも、ギャルっぽさが滲み出てしまうのは「何だかな~。」と思ったりする。
『自分の中に毒を持て』に救われた
登坂氏は芸術家の岡本太郎氏の『自分の中に毒を持て』(青春文庫)を手に取った。札幌に勤務していた時代を回想しながら、次のように語る。
登坂氏は岡本太郎氏のタイトルに惹かれて、活気を取り戻すためのおまじないを受け取ったのだと思われる。インパクトのある言葉は気持ちを高揚するものがある。岡本氏の人生観に触れたとき、救いの手を差し伸べてくれたのだ。
料理を極める
登坂氏は奥様や子供たちのために家庭料理を振る舞っている。北海道に勤務していた頃、「食」と「農」の大切さが身に染みたのだ。「食って命と密接につながるもんだな。」としみじみ感じた登坂氏は料理に精を出すことになった。
登坂氏は現在、女子栄養大学出版会の雑誌『栄養と料理』の連載記事を執筆している。料理の難しさや楽しさを感じつつ、料理に関する概念についての本を求めていたようだ。
そこで見つけたのが料理研究家のタサン志麻氏の『志麻さんのレシピノート』(幻冬舎)だ。フランスの家庭料理を主に紹介しているが、どのメニューも至ってシンプル。手間もかからないものばかりである。
家族を持つと、最も幸せをさせてくれるものは「食」になる。栄養バランスを考慮し、日々の食卓の彩りを華やかにすることは家庭の円満を持続する秘訣の一つになる。
登坂氏は2019年に結婚し、2人の娘を育てている。婚約後は幾度の困難を抱えていた。それを乗り越えた今、日々の生活を豊かにするべく奮闘している。
その中で「料理」は肝心要であろう。会社勤めを主流とする私たちは料理に力を注いでいるかといえば、そうではない。「時間のやり繰りが難しい」「面倒だ」「食材の高騰で安易に作れない」などの様々な理由があるからだ。それでも栄養をきちんと取らなければ、日々の活力を維持することができない。登坂氏の料理への向き合い方は傾聴に値することであろう。
登坂氏の今後の活躍に期待したい。