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山本太郎 総理への条件② 山本太郎とは何者か【後編】3.11~政治家への転身、れいわ新選組の誕生

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3.11で直面した日本の危機



 2011年3月11日に発生した東日本大震災。津波と大地震によって被災され、亡くなる人々を目の当たりにした山本太郎氏は満身創痍だった。震災復興支援の一環として炊き出しや食料品供給などのボランティア活動を熱心に行うようになった。社会問題を真剣に考え始めた経緯について、山本氏は次のように語る。

< 私自身が社会問題を真剣に考える初めてのきっかけが災害でした。2011年、東日本大震災と原発の爆発。生きたいという思いから始まった私の政治のキャリア。でも今、この国では生きたいとすら思えない人々が多くいます。1年間の自殺者は2万人を超え、未遂は50万人を超える。完全にこの国は壊れています。
 あなたは自分が生きていても許される存在だと胸を張って言えますか。
 あなたは、困っているときに「助けてほしい」と声を上げられますか。
 山本太郎からの、この問いにすべて、言える、思える、できると答えられた人、どれくらいいますか。そう多くはないと考えます。
 なぜなら、あなたは何ができるんですか、あなたは世間の役に立ってるんですかっていうような空気、それが社会に蔓延してるからです。だから、そんな社会を、政治を、変えたいんです。生きててよかった、そう思える国にしたい。それは無理だと思いますか。私は思いません。政治を諦めた。政治なんて興味ない、そんな選挙で投票に行かない50%の人々が力を合わせれば、国は、社会は、変えられます。それが選挙、政治なんです。
 あなたの生活を楽にする、あなたが困る前に手を差し伸べてくれる、将来に不安を持たずに生きていける、そんな国づくりの先頭に山本太郎を立たせてくれませんか。>

※太字は筆者強調

山本太郎『#あなたを幸せにしたいんだ 山本太郎とれいわ新選組』集英社 p.16-17

 「あなたが困る前に手を差し伸べてくれる」。これは山本氏の母からの教えである。政治を通じて困っている人に手を差し伸べる存在となる。そのような決意を新たに表明したのだ。

 折しも、日本の自殺者数はどのぐらいいるのか。
 NHKニュースによれば、2023年の自殺者数は2,1818人と前年(2022年)よりも63人減少した。主に若年層の女性や中高年の男性の自殺者数が増えている。詳細は次の通りになる。

性別でみると、男性は1万4854人と前年から108人増え、女性は6964人と前年より171人減りました。

男性は30代から70代までいずれも増加していて、
▽30代が1878人(+94人)
▽40代が2663人(+52人)
▽50代が2934人(+86人)
▽60代が1928人(+66人)
▽70代が1908人(+2人)となりました。

女性は20代以下と50代で増加し、
▽20歳未満が377人(+43人)
▽20代が921人(+110人)
▽50代が1252人(+7人)でした。

子どもの自殺も相次ぎ、
▽小学生が13人(-4人)
▽中学生が152人(+9人)
▽高校生が342人(-12人)で合わせて507人(-7人)でした。

小中高生の性別では
▽男性は259人と34人減りましたが、
▽女性は248人と27人増えました。

NHK『去年の自殺者2万1818人 前年比減も若年女性や中高年男性増』2024年1月26日

 自殺の動機については主に健康問題と生活・経済問題を上げていた。

 「このような実状を黙認するわけにはいかない。」
 山本氏は「すべての人が生きられる社会」を実現すべく、政治の表舞台に立ったのである。



芸能人の”自死”




 翻って、日本の芸能界はどうなのか。気になる読者はいるだろう。実は芸能界も深刻な状況に立たされているのだ。

 日本芸能従事者協会理事を務める俳優の森崎めぐみ氏は『芸能界を変える』(岩波新書)の中で芸能人が自死を選択するという背景を社会問題として捉え、心のケアを拡充するべきだとして警鐘を鳴らす。主な理由は2020年の新型コロナウイルスの感染拡大に伴う自粛要請が発端となった。芸能の仕事がなくなり、日々の生計を立てるのに難儀した。日常生活におけるストレスが増したからだと指摘する。

< コロナによる自粛要請から二年四カ月経った二〇二二年七月頃、公演などの中止か延期の経験は九二・一%に達し、ストレスを感じている人が九八・三%にまで上りました。
 公演の初日にPCR検査で一人でも感染者がいれば中止か延期の判断をせざるを得ません。廃業した人が後を絶たず、映画館や劇場、ライブハウスが閉館にまで追い詰められた例も少なくありませんでした。
 舞台俳優や音楽家、舞踊家などステージに立つ演者やスタッフからは次のような絶望の声で溢れていました。

お客様へ作品を届けたいので届け続けているが、会社の資金も個人の資金も減る一方で、どうしたらよいか、わからない
しんどい
毎日死のうか思うくらいに追い詰められる
無症状でも一人でも陽性者が出たら公演はただちに終了。莫大な赤字を負った。辛すぎる。

 第七波の頃(二〇二二年七~九月)の調査ではコロナ禍当初からあった「不安」「」に加えて、「虚無」「絶望」の文字がせきを切ったように噴出しました。
 「精神面でだんだん苦しくなってきました」「先行きが不安。自己責任で働くことは心身共に限界」など、危機的な状況でした。>

※太字は筆者強調

森崎めぐみ『芸能界を変える』岩波新書  p.72-73

 芸能で活躍する人たちの中には日々の生活で苦渋苦難に直面している状況が伺える。さらに、森崎氏は「いのち支える自殺対策推進センター」が作成した統計データを駆使しつつ、次のような現実があることを伝えている。

< 「いのち支える自殺対策推進センター」が警察庁の自殺統計原票より作成した二〇二〇年の「自殺者数の日次推移」には、国民的に人気のある俳優と女優の自死が報道された日以後に、全国の自死者総数が、予測値と比べて大幅に増えているのを明らかにしました。この二〇一八年から約五年間に、著名な芸能従事者だけで自死報道が十九名ありました。歌手、俳優、お笑い芸人、アイドル、プロレスラー、歌舞伎俳優、映画監督など様々な職業の方々です。亡くなった年齢は、一〇代(ー三・〇%)、二〇代(三一・六%)、三〇代(二六・三%)で半数を超えてしまっています。今後の後継者となる若年層の自死が多いのは悲しいことです。これは、深刻な社会問題ではないでしょうか。>

前掲書 p.84

 山本氏もかつて芸能界に身を置いた人間として、業界の内情に精通している。ただ黙認するわけには行かないだろう。
 確かに芸能界でそれなりに楽しく働いている方々がいる。しかし、その一方でロケ先の撮影現場の中には劣悪なものがあり、常にストレスと不安を感じながら、仕事をこなしている。「こんな酷なことをしてまで芸能をやりたかったのだろうか…」先行きが見えず、ままならない日々を送っている方々もいる。テレビや新聞では報道されないほどの過酷な労働環境に身を置きながら、あちらこちらで阿鼻叫喚の様相を呈している。

 「過酷な環境を改善するためには芸能人の働き方の見直しやフリーランスの健康への配慮、ハラスメント防止、メンタルヘルスケアの拡充などの対策を講じてほしい。芸能人たちの心身の安全を確保することが不可欠だ。」という森崎氏の危機意識を真摯に受け止めるべきだ。

※ 森崎めぐみ氏の著書『芸能界を変える』(岩波新書)に関する内容は下記のnoteで紹介記事を掲載しています。ご参照ください。



福島原発事故で考えたこと





 山本太郎氏は政治家に転身してから街宣活動に力を注いでいる。特に福島への政治活動は事欠かない。街宣では聴衆にマイクを渡して対話をする。しかし、選挙期間中は山本氏自身で演説を行う。福島県だけは時間を延長し、聴衆からの質問に正面から受け止め、人々との対話を重ねている。その理由について、次のように語る。

< 山本 選挙のときに福島に行くんだったら、これは自分の言いたいことだけ言って終わるんじゃ、話にならないだろうと思ったんです。原発事故からの反省点というのは、自分の中でも、かなり明確なんです。被害者的立場の人に対して、追い詰める可能性がある言葉をかけたりしてしまった。原子炉等規制法及び放射線障害防止法では、事業所外の一般公衆に年1ミリシーベルトの追加被爆を与えないとの考えから、施設の規制がなされているにもかかわらず、福島の子どもたちがいる学校まで含めて放射線量基準を、20ミリシーベルトとしてしまった。1年中放射線管理区域に居続ける人はいませんが、それで年間5ミリと少し。その約4倍を子どもたちに許容する政治など、破綻してるじゃないですか。そんな政府は許せないという話なんです。何も私が勝手に思いついた数値を言って、それは危険だととかって言っているわけじゃない。あくまで事故前の基準で考えないと人々の健康は守れない、と訴えていました。一方で地元の人にとってみれば、あなたが危険だと言っている数値について、国は安全だと言っている。だから私たちは住んでいる。あなたの言葉ではなく、国を信じるという方々もいらっしゃいました。当然の反応でしょうね。そこに対して提案や説得という術を自分は何も持っていなかったということなんです。ほんとは力を合わせて、東京電力や国に対して、けじめをつけなきゃいけない。そういう力を集めたかったのに、逆にその合意形成の仕方がわからず、危険だ、身を守れ、というアナウンスしかできなかった自分が人々を苦しめることになってしまったという反省点は、ずっとある。今でも胸が苦しい。だから福島で憎悪を持って、「山本太郎、許すまじ」という人がいらっしゃったら、直接ご意見を言っていただこうと思って編成を変えたんです。>

山本太郎『#あなたを幸せにしたいんだ 山本太郎とれいわ新選組』集英社 p.53-54

 

 山本氏は被災された福島県民に追い詰めるような言葉をかけてしまったことに悔恨の念を抱かざるを得なかった。放射線量基準を定めた国の説明を信用した人々に「本当にそれでいいのか?」という疑問を投げかけたり、それに対する提案や説得する力を持っていなかった。単に「危険だ!身を守れ!安全な場所へ避難して!」と声高に叫ぶことしかできなかったことに心を痛めていたのだ。このような苦い経験から、震災と原発事故から幾年か経ってもなお、政治家として国民の声を聞き、面と向かって対話を繰り返さなくてはいけない。そして、原発事故の検証結果をベースに「事故を起こす引き金は何だったのか」「電力会社にシステムの不備はあるのか」「二度と同じ悲劇を繰り返さないためにはどうすればよいか」を考えた。
 辿りついた答えは「脱原発」に至った。



れいわ新選組の誕生





 2019年4月1日に山本氏は自ら政治団体を立ち上げた。その名は「れいわ新選組」だ。2019年4月10日付の産経新聞によると、消費税廃止を念頭に置いた経済政策を旗印に政治方針を打ち出したのである。「れいわ新選組」の団体名の由来は次の通りだ。

< 「れいわ新選組」という団体名に関しては「平成は経済停滞と格差が拡大した時代だった。大手企業にコントロールされた政治家たちが人々を搾取し続けた」と振り返った上で、「新時代を変えていくんだという思いで元号を使わせていただいた。『新選組』は、新しい時代に新しく選ばれる者たちという意味だ」と説明した。>

産経新聞『山本太郎氏「れいわ新選組」設立 「この国の人々、お守りいたす」』2019年4月10日

 令和時代に心機一転し、国民目線の政治を追求するれいわ新選組は日本の政界に新たな息吹を吹き込んだ。

 山本太郎率いるれいわ新選組はどんな社会を築こうとしたいのか。山本氏はこう語る。

< 誰もが切り捨てられない社会を作りたい。私自身が、「ああ、切り捨てられるんだ」ということを感じたのが、福島第一原発事故でした。16歳から芸能界で働いていましたから、同世代では当然、納税額も多い方なのだから、有事には国が守ってくれるはず、と高を括っていたんでしょうね。「直ちに健康への影響はない」という政府発表に度肝を抜かれた。自分程度では簡単に切り捨てられるレベルだと感じた瞬間でした。貢献度、みたいなものによって助けられる順番が社会の中にあるだろうというような考え方を私も持っていたのかもしれない。いやなやつですね。軽蔑します。芸能の世界に20年いて、自分もそこの住人で、助けられる側にいるだろうと。それが「いや、あなたも捨てられる側だ」と言われた気がした。ほとんどの人が切り捨てられる、それを自分で感じたときに、目が覚めた。だったら、全員を救う社会にしなきゃと思ったわけです。>

※太字は筆者強調

山本太郎『#あなたを幸せにしたいんだ 山本太郎とれいわ新選組』集英社 p.61-62

 ここに山本氏の思想の源泉が出ていることがよくわかる。福島第一原発事故で多大な被害を受け、県民のほとんどが「切り捨てられた」と感じた瞬間を味わった。山本氏も「いずれ俺も切り捨てられる側になるだろうな」と身震いした。社会の中で都合のよい人だけが優先される。日本社会への貢献度によって順番が決まってしまう。そんな社会が続けば、殺伐とした世界になる。政界や経済界だけではない。芸能界もだ。そのように突き詰めた時、山本氏は母の言葉を思い出しつつ、「社会的弱者の立場にいる人を救わなきゃ。」と襟を正したのだ。



国会議員になって実現できたこと




 山本太郎氏は参議院議員として度々国会に出向く機会が増えた。自身が掲げた法案を公約として次々と実現させた。成果の一例として、2015年8月に成立した「女性活躍推進法」において追加した「附帯決議」に関する法律だ。これをDV・ストーカー行為の問題に盛り込んだと説明する。

< 附帯決議っていうのは、法案が採決されて法律になる時に、その法案の中でちょっと抜け落ちてる部分や、本当は課題として取り上げたほうがいいよね、でも今回はちょっと入らなかったね、というようなことを補足するものです。法的拘束力はないんですが、立法府から、行政に対して「しっかりと、こういうことも考えていくように」というようなもの。

[太郎が「女性活躍推進法」において、附帯決議に加えたのは次の一文。]

配偶者からの暴力およびストーカー行為等により、女性の職業生活における活躍が阻害されることがないよう、被害の防止及び被害者に対する相談・支援体制の充実を図ること

[なぜ、DVの問題を盛り込むことになったのか?]

 ちょうど女性活躍推進法について質問する2ヵ月くらい前、DV被害者を支援する団体の代表理事をやってる吉祥よしざきさんという女性に合ったんですね。
 それで、DVの問題って詳しく知らなかったのでレクチャーに来てもらったんです。話を聞いて、DVについて全然知らなかったことに気づきました。
 例えば、DVの範囲の広さ。殴ったり蹴ったりというのがDVだと思ってたら、それだけじゃなく、言葉もそうだし態度もそうだしって聞いた時、自分自身もドキッとするものがありました。不機嫌な態度や発言もDVなら、自分も加害者になったこともあるなって。>

※太字は筆者強調

山本太郎『僕にもできた!国会議員』筑摩書房 p.29-30

 山本氏の附帯決議に関する法案の一文を追記したことに対し、対話を行ったDV被害者支援団体を運営する吉祥氏は次のように述べる。

< 私はDV被害に遭った女性を支援しているので、特に役所に同行する時なんかに役立ちます。彼女たちの権利擁護のために。都道府県でも市町村でも、初めて会う役所の担当者には必ず見せますね。
 例えば、DV防止法ってすごい狭い法律で、被害者を逃がすことがメインとも言える法律なんですよ。これまでは、逃げた後にどうやって女性たちが自立してしっかり社会で活躍して、納税者となり社会の一員となるか、お子さんのいる女性はその子が暴力や貧困の連鎖にからめとられず健康に成長できるか、そんな発想がありませんでした。極端に言えば、逃がして生活保護に繋いだら終わりって感じで。でも、この附帯決議によって「被害者のその先」っていう道筋ができましたね。
 役所の人たちにも偏見があって、DV被害者は特殊な人とか、二度と生活保護から抜けられないってイメージがあるんですけど、この附帯決議によって、そうじゃないんだ、DVの影響で一時的に困難な状況にあって働けなかったりするけど、ちゃんとケアを受ければ活躍できる人材なんだってわかってくれて、だいぶ意識が変わってるんです。話してて対応が違う。すごい助かってますね。
 
一方で、DV被害者は心身に傷を受けてる人たちなので、「はい、夫と離れられたんだから働きなさい」って言われても難しい場合がある。そういう時にも附帯決議は使えます。生活保護の担当者だったり、母子手当の担当者だったりに、「働け働け」だけじゃなくて、ちゃんとケアを受けさせろって言える根拠になる。「配偶者からの暴力及びストーカー行為等により、女性の職業生活における活躍が阻害されることがないよう、被害の防止及び被害者に対する相談・支援体制の充実を図ること」って書いてありますからね。
 「あなたのこの附帯決議 知らないんですか?」「理解なさすぎるから、職場でちゃんと共有してください」って、この附帯決議を役所で回覧してもらうことがあります。>

前掲書 p.31

 実際に、DV問題についてのレクチャーを受けた山本氏の印象はどうか。吉祥氏は続ける。

< 最初にレクチャーに行った時は、1時間くらい、DVについての話をしました。山本さんと秘書の後藤さんに「DVとは何か」とか本当に基本的なことをお話ししました。そうしたら終わって帰る時、お二人が「あー、苦しかった・・・・・・」って言ったんですね。辛い話を聞いて苦しかったのか、男性である自分が責められているように感じたのか、聞いてませんが両方じゃないでしょうか(笑)。その時、この人たちは真剣に聞いてくれるんだなって思いました。だいたい議員さんとか役人の男性は、自分とは関係ない話として、被害者がかわいそう、DV男なんか取り締まってやる、みたいに言う人が多いんですけど、自分に引き寄せて考えてくれるっていうのは、被害者にとっても加害者にとっても大事なことなので。人間性がいいな、と思いました。
 今、性暴力のワンストップセンターができましたけど、官民連携型のDVのワンストップセンターができるといいなというのが理想です。今は本人を逃すためのワンストップしかないので、逃げられない女性や加害者、DV家庭で育った子どものケアも含めたワンストップセンターですね。
 山本さんに期待することは、すごい大事なことたくさんされてるからこれ以上はあまり言えないですね。それより、この附帯決議をもっといろんな人に知ってもらいたいですね。そしてこれをどんどん活用してほしいと思っています。>

前掲書 p.33

 「附帯決議」という言葉が入ることで、実際にDV被害を受けた人に対して精神面や身体面のケアを行うことで社会に復帰できるようにする。献身的なサポートによってDV当事者は少しずつ「生きる力」を取り戻し、前向きな意識へと好転するようになる。この法律が可決されたことで性暴力による被害を最小限に抑えるようにしたのだ。山本氏はレクチャーを受けながら、DV被害を受けた女性側の立場になって、彼女たちの塗炭の苦しみを理解した。「これは人間の尊厳を著しく傷つけるものだ。」と納得したのであろう。被害者にも加害者にも寄り添う温かな姿勢は人間的魅力に映ったと吉祥氏は喜びを感じたのだ。

 令和時代を迎え、SMILES UP(旧ジャニーズ事務所)で発生したジャニー喜多川氏(故人)の性加害問題といい、とある映画監督からの性暴力を受けて”自死”に至った問題といい、性暴力をめぐる事件は後を絶たない。先述のワンストップセンターを設立するなどの例を参考に、新たな対策を講じなくてならない時期に来ている。



国のリーダーとして立つ時に必要なこと



 では、熱い心を持った人情深い山本太郎氏は今後、総理大臣として国の舵取りを行うときに必要なこととは何だろうか。
 衆議院議員を務める政治家の小沢一郎氏(2019年当時)はインタビューで「山本太郎は総理大臣になれますか?」という質問に対し、このように答えた。

< 太郎くんに総理大臣の可能性があるかどうか?

 それはもう少し修行して、みんなに認められなきゃいけない
 総理大臣はひとつの党だけでできるわけじゃないから。太郎くんもかなり、そういうことがわかってきたと思う。だから、もっと政治家としての生き方、あり方、やっぱり天下国家、1億2000万の国民の国家だから、一部の人じゃないから。そういう人たちのことを全体としてどうすべきなのか、この国をどうすべきなのかという類のビジョンと理念をしっかりと勉強しながら持つようになってくれたら、僕はもうリーダーとして申しぶんないと思う。
 だから多くの人たちとの信頼関係をもっと強めていかなきゃいけない。人間関係、信頼関係を。自分だけ良けりゃいいというのじゃ、それは総理にはなれない。そういうことを心がけることと、社会をどうしていくのかという大きな理念が大事だ。
 それと、政策的なことはよくわかってるけど、これも基本は人間関係なんだけど、国会の中での実務経験も重要。
 各党との折衡やら、いろんな国会運営のことやら。いわゆる俗に言う「雑巾がけ」をしないといけない。自分が喋るよりも、喋りたい他の人に喋らせるとかいうことも、徐々にしなければならない。
 自分の選挙が危ないと言ってる間は総理にはなれない。だから選挙を盤石にすると同時に、他の人の選挙についても全部わかるようにならなきゃ、それで応援するようにならなきゃいけない。
 「選挙が強い」というのは、政治家としても最大のことなんです。選挙を心配してちゃ何にも喋れない。>

※太字は筆者強調

前掲書 p.68-69

 小沢氏の話は極めてシンプルだ。多くの人と出会い、多くの人と話をし、この国に何を求めているのかを聞く。聞いた内容を政策案として出す。「選挙が危ない」という意識は持たない。他の政党や議員たちの選挙のことまでしっかり把握する。その上で選挙に強くなるための修行を継続することだと言う。

 ただし、令和時代を迎えた現代は「コスパ」「タイパ」の大流行だ。2024年東京都知事選で2位になった石丸伸二氏はSNSを駆使した選挙戦略(特に短時間動画やショート演説を重視する)を行い、見事に結果を残した。国民民主党の玉木雄一郎氏も「手取りを増やす」というキャッチフレーズで有権者を集め、20代・30代の若者たちや就職氷河期世代の中高年たちに向けて生活力を底上げできる経済政策を実行することを訴えた。先の石丸氏のSNS戦法もフルに活用し、若者たちの心を惹きつけている。

 「雑巾がけをひたすらやればよい」という言葉はもはや時代錯誤と言ってもいい。ぐずぐずしていると、若者たちは国民民主党や石丸新党などのニューエリートたちが集う政党に取られてしまう。彼らのほうが魅力的な経済政策を打ち出してくるからだ。

 山本太郎氏の「全世代に寄り添う政治を実現する」という信念は今後、彼自身の活動ぶりと力量が試されることになる。

 ここまでは「山本太郎とはどういう人物なのか」について書いてきた。次回以降は日本で起きている社会課題についてテーマごとに取り上げていく。その内容はいずれまたの機会に筆を執ろう。



<参考文献>

山本太郎『#あなたを幸せにしたいんだ 山本太郎とれいわ新選組』集英社 2019
山本太郎, 雨宮処凛(取材・構成)『僕にもできた!国会議員』筑摩書房 2019
森崎めぐみ『芸能界を変える』岩波新書 2024

<参考サイト>

※写真を借用させていただきました。この場を借りて御礼を申し上げます。


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ハリス・ポーター
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