追憶 階戸瑠李
2020年8月に女優の階戸瑠李氏が逝去されてから、4年が経った。この俳優をご存知の方はいるだろう。今でも忘れていないファンや友人の方々は大勢いるに違いない。
もちろん、私は面識がない。特別な感情を抱いているわけではない。階戸氏の存在を知ったのはテレビニュースで訃報を聞いただけである。
共通点があるとすれば、「同年代」「読書好き」「語学ができる」の3つだ。
階戸氏についてネットで様々なことを調べた結果、これまでの彼女の歩みを知った。まず、彼女は元々グラビアアイドルとして活躍していたのだ。
階戸氏がグラビアアイドルを職業にしていたと聞いたら、女性の方々は敬遠されると思う。男性ファンの性的視線を釘付けにしてきたことから下心が丸見えだと感じ、女性たちにとっては心の中でいささか嫌らしさがある。煙たがるのではないか。だが、階戸氏は初めからアイドルを目指しているわけではなかった。
上智大学文学部ドイツ文学科を卒業後、化粧品会社に勤務していたが、芸能界への夢が捨てきれなかった。早期に脱サラして芸能の門戸を叩いたのだ。本来は俳優志望だったが、当時はそれほど芸能の仕事に恵まれたわけではなかった。そんな中でグラビアのオファーの声が掛かり、グラビアアイドルとして活動する決心を固めた。優美な曲線を活かして際どい露出感を披露したことで話題を呼び、高い評価を受けた。
だが、階戸氏はグラビアの仕事を続けても表情が暗いままであった。別の事務所に移行してから舞台経験を積み重ねるうちに映画やドラマに出演するようになった。本格派の俳優としての活躍ぶりがSNSを中心に話題が拡散したのである。特に印象に残ったのはテレビドラマ『半沢直樹』の「ちょい役」だそうだ。社長の噂をペラペラ喋ってしまう女性社員の役を演出して、世間の耳目を集めた。
ようやく芸能界で華が開こうとしていた矢先の訃報だった。階戸氏の最後の投稿となった。映画が好きだったため、余暇の時間を有効に使って映画館へ足を運んでいたのだ。投稿した日の翌日、彼女は旅立った。
グラビアアイドルの同士である倉持由香氏をはじめとするモデルたちが悲哀と寂しさを込めた言葉で追悼の意を表した。アイドル時代からのファンのみならず、ドラマ愛好家の一般人や芸能関係者、映画監督、脚本家の方々も深い悲しみと悔恨の念を交錯するほどだった。惜しい存在だと思う。
階戸氏は読書家としても名を馳せていた。文学作品に没頭していたのである。文芸雑誌「波」(新潮社)に書評を執筆していたのだ。
冒頭に掲載した階戸氏のnoteでは小説作品を発表する予定だった。だが、願い叶わず。貴重な文才を失ってしまったことは文学界にとって寂寥感を抱かざるを得ない。
階戸氏は語学も堪能だった。母語である日本語、英語、ドイツ語を難なく操っていたそうだ。ツイッター(現X)で更新する際、英語で投稿することもしばしばあった。ドイツ語は極めて少なかったが、ドイツ文学科を卒業したという自負があり、どこかで喋る機会を作っていたのだろう。亡くなる1ヶ月前、Xに掲載した写真で韓国語の勉強も行っていた。
語学の才媛に恵まれており、将来的に海外の映画で存分に活躍していたことであろう。それも芸能関係者や俳優仲間から温かい目で応援していたおかげであろう。僥倖に恵まれた人生であることは間違いない。
彼女のnoteには10個の記事を投稿していた。これらが「遺作」となった。彼女が残した言葉の一つひとつには現代社会の窮窟さや鬱然たる閉塞感をペンの力で表現しようと試みたに違いない。
繰り返すが、早逝されてから4年を迎えた。芸能界にとって「階戸瑠李」という芸能人を忘れ難い存在であろう。そうした想いを込め、哀悼の祈りを捧げる。