【映画紹介】『血のバレンタイン』(1981)はスラッシャー映画の最高傑作である
2月です。今年もバレンタインの時期がやってきました。というわけで今回紹介する映画は、カナダ産ホラー『血のバレンタイン』(1981)です。
あらすじ
そもそもなんでこんな記事を書いたかと言いますと、もちろん時期的にちょうどいいのもありますが、何より自分がこの作品を愛してやまないからです。タイトルに書いた通り、ガチでスラッシャー映画の最高傑作だと思います。誰が何と言おうとこれだけは譲れません。
好きが高じてnoteのアカウント名を殺人鬼のもじりにしたり、アイコンもそれっぽくしたりと、若干イタイ領域に足を突っ込みつつあるくらいには好きです。
リメイク版? 『マイ・ブラッディ・バレンタイン3D』? なにそれ? おいしいの? オリジナル版こそ至高にして究極。
どんな映画?
スラッシャー映画というジャンルに馴染みのない方へざっくり説明しますと、ホラーのサブジャンルのひとつで、殺人鬼(=スラッシャー)が登場して人がたくさん殺される作品を総じてそう呼びます。有名どころでは『13日の金曜日』『ハロウィン』『悪魔のいけにえ』等。
Wikipeida「スラッシャー映画」によると「1978年から1984年の間にピークを迎え、「黄金時代」と呼ばれた。」と書かれており、本作はその黄金時代真っ只中に公開されました。
とはいえ、記事中にも『血バレ』の名前が出てきますが、興行収入的にはかなり苦戦を強いられたそうです。まあ、ヒットしてたら2作目3作目とシリーズ化するのがお約束ですものね。『血バレ』も2作目の構想があったものの、結局は企画倒れになってしまったそうです。
失われたシーン
じゃあなんで『血バレ』が一部好事家の間で語り草になっているのかと言いますと、もちろん魅力はこのあとたっぷり語りますが、一因として「失われてしまった幻のシーンが存在する」というところが大きいと思います。
Wikipediaの記述を補足すると、『血バレ』は過激なゴア表現が売りだったにも関わらず厳しい検閲を受け、本国では複数シーンがカットされた状態で公開されてしまいました。おまけにオリジナル・ネガフィルムを直接カットしてしまった為、ディレクターズカットのように易々と「完全版はビデオでどうぞ」とはいきません。
近年、海外盤Blu-rayのリリースに伴いカットされたシーンが復元されるまで、本国のファンにとってはまさに「幻のシーン」だったわけです。
ちなみに、経緯はまったく不明ですが、日本での劇場公開時のみノーカット版が上映されたそうです。当時のパンフレットにもそのような記述があります。
しかしながら日本でもビデオ化の際はカット版が採用されており、「当時劇場で観た人間以外誰も『血バレ』の完全版を知らない」という状態に。証言のみで語られる映画として、半ば都市伝説のような形で評判を呼んでいました。ちなみに自分はノーカット版観てません。悔しい。
余談ですが、「日本公開版は本当にノーカットだったのか?」と少し疑問に考えてます。パンフレット記載の上映時間は1時間31分(=91分)で、カット版の90分よりも確かに長いけど、海外の復元版93分より短いんですよね。監督の発言によると「カットされた映像は8~9分」なので、明らかに尺が不足してます。
なので、パンフレットが間違っているか、あるいは当時鑑賞した人々の記憶がマンデラ効果のようなもので捏造されているか……そこのところどうなんでしょう。
まあ、そういうあやふやな部分も都市伝説らしくて面白いですよね。
追記:
バージョン違いについて、国内版BDリリース元のスティングレイがXで詳細を説明していますが、日本公開版の真偽については「今となっては確認のしようもありません」とのこと。
『血バレ』のここがすごい!
前置きが長くなりましたがここから本題です。ストーリーのネタバレは極力避けますが、本作のハイライトシーンについて言及するのでご注意ください。
殺人鬼の魅力
皆さんは映画のキャラクターのどのような部分に魅力を感じますか? ヒーローのように活躍する主人公? 美しく愛嬌のあるヒロイン?
ホラーの場合、見方がちょっと異なります。
「作品の象徴が恐ろしい存在として描かれているかどうか」
これに尽きます。持論ですが「スラッシャー映画の魅力のすべては殺人鬼に詰まっている」と言っても過言ではありません。ストーリーやその他諸々は二の次です。
その点『血バレ』は殺人鬼の魅力が100点満点中120点ですから、これはもうスラッシャー映画最高傑作も妥当な評価でしょう。
『ハロウィン』のブギーマン然り『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス然り、名作スラッシャー映画には強烈な印象を受けるアイコニックな殺人鬼が登場します。
『血バレ』のハリー・ウォーデンは、カラーリングこそ黒一色で地味ながら、ガスマスクにツルハシと炭鉱夫らしい装備が特徴です。ガスマスクは正体を隠すことにも役立っているので一石二鳥。
外見に表立った異常性が見られないからこそ、油断して近づいたらいきなりグサッとやられる可能性もあるわけで。多くの殺人鬼に共通しますが、人間味がなく感情が読めない存在は不気味です。加えてウォーデンはほとんどしゃべりませんし。
狙われたが最後、相手が心臓を抉り取るプロとあっては、助かる見込みほぼゼロです。シンプルに殺傷能力の高さが怖い。
物語の核心に触れるのでぼかしますが、ラストシーンでは自分の心に相当深い爪痕を残してくれました。
町の血塗られた歴史
舞台は鉱業がさかんな片田舎の町。
本編からさかのぼること20年前、鉱山での爆発により、5人の作業者が生き埋めになる事故が発生。救出作業は進められたものの、5人中4人は死亡、唯一の生存者であるハリー・ウォーデンは精神に異常をきたし、そのまま精神病院へ収容されます。
それからちょうど1年後、痛ましい事故の記憶を消し去ろうと、町全体がバレンタインのパーティで賑わっていた最中にそれは起こります。ウォーデンが退院し、不注意によって事故を引き起こした鉱山監督者2人を殺害。遺体から心臓を抉り取り、キャンディーの箱に詰めてメッセージを添えました。
以上が殺人鬼ハリー・ウォーデン誕生の顛末です。惨いことに、生き埋めになったウォーデンは、ほかの4人を「食べて」延命したというのですから想像を絶します。そりゃ精神も狂いますわ。
ホラー映画の中には、災厄の原因が超常的なものだったり快楽殺人だったり、あえて説明を挟まないタイプも珍しくありませんが、個人的には本作のようにバックグラウンドが作りこまれている方が好みです。
まあ「キャンディーの箱に心臓詰めるのは悪ノリ入ってる」と言われれば、それはそう。
個性豊かな遺体アート
先述の「ハート(心臓)をプレゼント」もそうですが、何気にウォーデンはユーモラスなキャラクターです。
コインランドリーで殺害した遺体を洗濯機にぶち込んだり。
抉り取った心臓をソーセージのスープに紛れ込ませたり。
等々、センセーショナルな犯行アピールに余念がありません。
そもそも心臓をきれいに抉り取るのだってめちゃくちゃ手間がかかるでしょうし、職人/芸術家気質なのでしょうね。
先に「ゴア表現が売り」と書いてしまったのでグロ系苦手な方は敬遠してしまうかもしれませんが、このように「そうはならんやろ」的なシチュエーションが多いので、楽しくツッコミながら観ることもできます。
エンディング曲が超名曲
『血バレ』と言えばエンディング曲が有名。劇中BGMも手掛けたPaul Zaza作曲の「The Ballad Of Harry Warden」という曲です。YouTubeにカヴァー動画がアップされたり、B級映画の枠を越えた謎の人気を誇ります。
(↓当該曲は14:20~)
かくいう自分もホラー映画界屈指の名曲だと思います。この曲がね、本編の後に流れたときのやるせなさと言ったらもう……。歌詞の内容が「町に伝わるハリー・ウォーデンのうわさ」なのがまた素晴らしい。
その他の要注目ポイント
緻密に計算された構成とまでは行きませんが、ストーリーや主人公を取り巻く人間関係の面でも観ていて退屈しません。終盤にはビックリする展開が待ち受けているので、そちらもお楽しみに。
物語的に盛り上がってくるところで、同時に場所が坑道へ切り替わるのが良いですね。薄暗さと入り組んだ構造がホラーのロケーションにピッタリなんですよ。
祝! 国内盤Blu-ray発売決定!!
この記事は、『血のバレンタイン』という名作映画の存在を誰かに伝えたい想いで書きました。少しでも興味を持っていただけましたら幸甚です。
ただ、国内においては冷遇されておりまして、パッケージはDVDが2007年に発売されたきり、動画配信サービスでも観れるといえば観れるけれども、内容はゴアシーンカット版という有様。
が。
なんと、国内盤Blu-rayの2024年内発売が予告されています!!
内容は本編カットシーンに加え、ビデオ初収録となる日本語吹き替え付きという至れり尽くせり。このニュースを知ったときは文字通り狂喜乱舞しました。ありがとうスティングレイ……!
メーカーの予約受付は未だ始まっていませんが、首を長くして待ちましょう。こちとら10年以上待たされましたからね。今更数ヶ月程度問題なし。
追記:
発売日は6月21日(金)に決定! Amazonまたはスティングレイ公式通販で購入可能。
「この記事も予約が始まってから投稿すれば良かったのでは……」と書いてから思ったのは秘密。バレンタインに間に合わせたかっただけです。
皆さん、Blu-rayを買って『血バレ』観てください。
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