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東京の真ん中、ここだけ時間がゆっくり流れる。三軒茶屋「twililight」〈レポート〉

好きな「場所」を紹介するにあたって、最初は絶対にここだった。東京都世田谷区三軒茶屋の「twililight」。トワイライライト、と読む店名は、間違っているのが、正しい。

本屋(新刊+古本)とギャラリーとカフェを兼ねたお店だ。私にとってはこういう空間がとてもありがたい。本屋が好きだけれど、本屋だけだと立ちっぱなしになるし、何か買わないと申し訳なくなるから。何も買わなくても、本が売られている空間にコーヒー1杯でずっといられるのはすごく落ち着く。(会計前の本は席では読めない。)

本棚の反対側の壁から奥にかけて、ギャラリーになっている。


仕事で取材したイベントに、店主の熊谷充紘さんが登壇していたのが知ったきっかけだった。入浴剤と詩を掛け合わせる企画のイベントだったのだけれど、熊谷さんは誰よりもゆっくりとした時間が流れる落ち着いた声で、「詩で、社会的な自分を洗い流す」というようなことを言った。私は熊谷さんの言葉選びにどうにも惹かれてしまった。

熊谷さんの言葉選びは、創作をメインでやっていないことが信じられないくらいに良い。何と言っても、メニューがこれだ。

あなたとの境界を溶かしたくて、でも境界があるからあなたを感じられて、ごちゃまぜになった思いをあなたの名前に託す。こんなに近くて、遠い、わたしたちは、どこまで行けるのだろう。ふるい落とされないよう互いにしがみつきあって。そんな味。

どんな味だ。まさかサンドイッチの説明だなんて誰が思うか。


「twililight」は、正直私の趣味ぴったりというわけではないけれど(初めて来た時は白すぎてそわそわした)、熊谷さんの時間の流れがあんまりにも素敵だから、その時間を浴びに来ている節がある。

とはいえ、気になっている本はだいたいある。メインフロアの3階に新刊、入口のところと4階に古本があり、新刊は人文書を中心に、国内文芸、詩集や歌集、韓国人作家の本、ZINEなどを取り扱っている。

ジェンダーやケアをテーマとした本が多い。社会問題の中を生きる人々の、体温に触れるような本。

熊谷さんの好みだけで選んでいるわけではなくて、どんな本屋もそうであるように、お客さんが本棚を作っていっているらしい。ここはさながら、熊谷さんやお客さんを総合した「twililight」というひとつの人格の頭の中か。

「twililight」では、書籍の出版もおこなっている。


土日はいつもけっこう混むので、この日は個人的な代休を利用して平日に訪れた。いつもよりもっと静かな空間でコーヒーを1杯。

以前会社の仕事でお店を取材して、熊谷さんにお話を伺っていた時、向こうの建物の窓に猫がやって来た。元気かな。また来てくんないかな。

4階の古本売り場。

4階の扉から外に出ると、屋上スペースに繋がっている。営業日は毎日、屋上からの眺めがXでポスト(Twitterでツイート……)されていて、「twililight」の象徴のような場所だ。

もたもたしていたら日が暮れてしまった。こんなふうに、茶沢通りを一望できる。

この日はあいにくの曇りで、天気が悪くて写真が微妙かな〜なんて思っていたら、こんなツイートがされていた。

世界中がブルー……敵わん…………。

私の住んでいるところからはあまり気軽には行けないのが残念だけれど、時々、自分へのご褒美に行きたくなるのが「twililight」。外の世界とは時間の流れ方が全然違って、こんなに穏やかな場所では絶対に喧嘩なんかする気になれない。

そういう空間って、現代人たちに必要じゃないですか。

ちなみにliがひとつ多い店名は、「最初から間違っていれば、間違うことが怖くなくなる」という思いがこもっているらしい。どこまでもありがたい。



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