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南ドイツ一人旅⑨まだ知らぬ街シュトゥットガルト
南ドイツ一人旅。
旅の最後の目的地は、シュトゥットガルト。
ドイッチュランドチケット(ドイツ国内の高速列車以外が乗り放題)を持っているものの、さすがにデュッセルドルフから南ドイツまで地方路線だけを乗り継ぐと、9時間もかかる。
しかも乗り換えが多く、大きな荷物と一緒では何かと不便だ。
遅延も多いだろうから、乗り継ぎが上手くいくとも限らない。
ここは値段よりも、快適さを選ぶべきだろう。
アルプシュタットは高速列車は走っていないので、デュッセルドルフとシュトゥットガルトの往復は、直行のICE高速列車を予約した。
何十年も前に、メルセデス・ベンツ博物館のためだけにシュトゥットガルトを訪れた事があったのだが、街を見る時間がなかったので心残りだった。
そんな訳で、帰りは午後遅めの電車を予約し、シュトゥットガルトで時間を作り、街を歩いてみることにした。
シュトゥットガルトの中央駅は、ただいま大規模な工事の真っ最中だ。
Stuttgart21と呼ばれるプロジェクト。
何度も計画は頓挫し、再計画され、そして今に至っているそうだ。
来年には終了予定らしいが、神のみぞ知るかもしれない。
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ドイツ鉄道から地下鉄に乗り換えるには、工事現場をぐるりと回避し、5分ほど歩かないといけない。
スーツケースを持ったたくさんの観光客らしき人は、電車に間に合わない!と慌てて走っていた。
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市庁舎とマルクト広場
シュトゥットガルトは、クリスマスマーケットで有名だ。
きっと冬の広場は、息を呑むほど美しいだろう。
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この辺りは大きなショッピングモールや、ブランド品のお店がずらり。
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ポルシェ博物館には行けなかったが、お店の中にレースカーが展示されていた。
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幸せなハンスの泉
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シュティフト教会
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古城
中は博物館になっている。
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新宮殿とその広場
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広場の中央に立つのは、記念の柱。
1841年から1846年までのヴュルテンベルク王ヴィルヘルム1世の在位25周年と、60歳の誕生日を記念したものらしい。
ローマ神話の女神コンコルディアが、まるで街を守っているかのよう。
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オペラ座
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池の中に大きなオブジェが置かれていたので、どんな作品かと気になり近寄ってみる。
これは芸術作品ではなく、2021年の暴風雨の際に、オペラ座の屋根が嵐によって折り重なり壊れたものらしい。
気候変動への問題提起の意味も含め、オペラ座前の池に飾られる事になったそうだ。
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図書館
中を見る時間がなかったのだが、とてもモダンで美しい図書館として有名。
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カールス広場
ヴィルヘルム1世の像が堂々と飾られている。
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ヨハネス教会
水に浮いているように見えるという教会。
池が凹字状になっており、池に張り出すように教会が建てられているからだ。
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写真を撮っていたら、白鳥がスーと近くまで泳いで近寄ってきた。
あら、一緒に写りたいのね
では一枚
はい、チーズ
私は白鳥に話しかけながら、この一枚を写真に収めた。
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この公園には白鳥だけでなく、鴨がヨチヨチと散歩し、池には亀や大きなお魚も、たくさん泳いでいた。
公園のベンチにはたくさんの人が集い、思い思いの過ごし方をしている。
市民のみなさんにとって、ここは憩いの場所のようだ。
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かなりの駆け足だったので、外観を見るだけになってしまったが、街の様子が少し分かったので良しとしよう。
次は、ゆっくりこの街を訪れたい。
ポルシェ博物館では、製造ラインの見学もできるそうなので、是非参加してみたい。
駅のロッカーに預けておいたスーツケースを取り出し、列車に乗り込む。
これで、私の一人旅が終わる。
シュトゥットガルトを出発し5分も経たないうちに、土砂降りの雨となった。
豪雨の予報だったので傘を持って出かけたが、観光している間は曇り空で、太陽が出ると暑いくらいだった。
本当にラッキーだ。
今回の旅では、一度も傘を使う必要がなかった。
雨の予報の日もあったが、曇った日さえ最初の2日ほどで、それらの日も午後からは晴れた。
ほとんど快晴と言える綺麗な青空の中、私は南ドイツを満喫した。
今回の旅は、山へ、そして洞窟へと、自然に触れる旅。
しかし一方では、人間の築いた歴史、財力や知恵の結晶とも言える、お城を巡る旅。
一人旅。
最近はこういうのを、ソロ活と言うのだろうか。
旅は、誰かがいてくれると楽しい。
しかし、たとえ誰もいなくても、どうしてもやりたい事が、私にはたくさんある。
だから、それらの事を一人でできるならば、気が楽だ。
誰かにとって、それほど行きたくない場所や興味のない場所に、わざわざ付き合わせてしまうのは申し訳ない。
言い換えるなら、やりたい事があるけれど、一緒に行く人がいないからできないというのは、とても残念だと思う。
旅の最後の街シュトゥットガルトで、幸せなハンスを見たのは偶然なのだろうか。
初めてグリム童話のこのお話を読んだ時、私はいまいち理解ができなかったのだ。
なぜ黄金よりも馬が良いのか、なぜ砥石を失ったことをハンスが喜んだのか。
他人から見たら、なんと馬鹿な事をして!と思われても、ハンスはどんな物々交換をした後も、幸せ一杯だ。
最後に、何もかも失った時でさえも。
ハンスは、幸せとは何かを教えてくれる。
自分のやりたい事に集中し、全力で遊び、好きなものを食べ、誰かを助け、そして誰かに助けられた。
何と幸せな旅だったのだろう。
怪我をせずに、無事に帰って来られた事にも感謝。
そして、太陽に恵まれた事にも感謝。
時には電波の届かない山の中の数時間は、街に戻ってからの快適さを、より強く認識させてくれる。
電車もバスも数分おきに発車する都会では、たとえ車がなくても快適に移動できる。
普段は当たり前だと思っている事の多くは、実は国や街、多くの人が関わり、支えられているのだ。
普段と違う場所に身を置くと、そのありがたさを実感できる。
そして、この旅ができたのは、過去の自分が頑張って働いてくれたからでもある。
過去の自分にも、そっと感謝する。
私はまだ、ハンスのようにはなれない。
無欲に生きる事は、難しい。
やりたい事も、欲しい物も、行きたい場所もたくさんある。
それでもこの歳まで生きて、たくさんの物を失い、たくさんの物を手に入れた。
それはある意味、ハンスの物々交換のようなものかもしれない。
私は今、豚を手に入れた辺りだろうか。
シュトゥットガルトの泉にいるハンスも、ちょうど豚を連れていた。
もっと身軽になって生きていけたら、違う幸せが見えてくるのだろうか。
最後の砥石を井戸に落とした時、私は果たしてどんな気持ちになるのだろう。
喜ぶのだろうか、それとも悲しむのだろうか。
ハンスを思う私を乗せ、電車はデュッセルドルフに向け、グンと一気に速度を上げた。
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おまけ
旅のお土産を選ぶのも、楽しみの一つ。
今回はこちらを買い求めた。
アルプ地方で採れたサフラン入りの塩。
同じく、アルプ地方のはちみつ。
そして、マウルタッシェン(ドイツの餃子のようなもの)に似せて作られたチョコ。
友達はこのチョコ見て、マウルタッシェンにそっくりね!と大きく笑ってくれた。
良いお土産を見つけられて良かった。
お土産は、幸せな時間のお裾分けだ。
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旅の拠点の街