新しい家族
おいでませ。玻璃です。
この武家屋敷で新しい家族が増えた。
父が知り合いから譲ってもらったわんちゃんだ。
ミックス犬でポメラニアンが入っている男の子だ。
まだまだちっちゃい赤ちゃんで、茶色の毛がモサモサで目はブラウン、鼻と口の周りは黒。
私は末っ子で自分より小さい存在が家の中にいることがなく、初めて感じる愛おしさに、嬉しくて嬉しくて小躍りして喜んだ。
さて、名前は何にしよう?
「玻璃が決めたらええよ」
みんなに言われて
「えーと…何にしようかなー」
ちょうどその時にテレビで当時流行っていたドラマが流れていた。
松崎しげるさんと国広富之さんの『噂の刑事トミーとマツ』。
毎回最後の格闘シーンで怖がるトミーにマツが「お前なんか男じゃない、おとこおんなで十分だ! おとこおんなのトミコ!」と怒鳴りつけると、トミーがその言葉で奮起し、一瞬にして悪党を倒すと言う展開が人気の番組だった。
(今ならNGのセリフ)
それを観て
「トミーがいい!」
結局我が家にやってきたミックス犬は晴れて「トミー」と名付けられた。
学校から帰るとすぐにトミーを連れて散歩に行く。
貸し自転車で観光をしているお姉さんによく話しかけられた。
「わぁ〜可愛い!まだ赤ちゃんね」
私は得意げに頷いて見せた。
そんなトミーが少し大きくなったある日、何が原因だったのかわからないが、父がトミーを元の飼い主に戻すと言う。
私が泣き出すので、学校に行っている間に決行したらしい。
学校から帰った私は大泣きで父に訴えた。
「トミーを返して!トミーを連れて帰って!」
父は聞く耳持たず。
私は「一生恨んでやる」と心に誓った。その晩は悔しくて悲しくて絶望でなかなか眠れなかった。
次の日泣き腫らした顔で学校に行き、肩を落として家に帰ってきた。
最初幻かと思った。
トミーがいる!
聞くところによると、元の飼い主のところに連れて行かれたトミーは、ご飯も水も受け付けず、一晩中手がつけられないほど鳴いて、吠えていたらしい。
ヘルプの電話があり、父が迎えに行った。
うちに着いた途端に安心してご飯も水も飲み、小屋に入って眠ってしまったらしい。
私が学校から帰ったのがわかるとチャリンチャリンと繋がれている鎖の音をさせて小屋から出てきた。
「トミー!トミー!おかえり!」
私はトミーを抱きしめた。
嬉しそうにペロンと私の顔を舐める。
この事があってから、トミーは車に乗る事を拒むようになった。
病院に行く時も大騒ぎだった。
また、どこかに連れて行かれる。
そう思うのだろう。
それにしても父は、なんで元の飼い主に返そうと思ったのだろう。
でも、ウチ以外の家では飲まず食わずだったと聞いて、トミーが戻ってきてからはよく可愛がっていた父。
それからトミーは我が家の揺るぎない家族の一員となった。
ではまたお会いしましょう。
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