昭和枯れすすき
おいでませ。玻璃です。
奨学金のお世話になりながらも、なんとなく勉学にやる気の出ない私。
学校帰りにバイトをして、疲れて帰って寝る。
朝が起きられない。
遅刻する。
授業中眠くなる。
眠気防止に机の引き出し部分の空間からそっと小説を手前に出してこっそり読む。
全くやる気なし。
この頃両親がまた変な動きを始めていた。
新しい商売を始めるという。
私は嫌な予感でいっぱいだったが、両親は意気揚々、やる気満々だ。
私的には
「怪しいだろ!?」
と思えるおじさんがまた自宅にやってきて打ち合わせをしている。
こっそり廊下で聞いていると、「オージービーフ」がどうとか聞こえる。
今は皆がよく知るオーストラリアの肉だが、当時の私には聞きなじみがないワードだ。
どうやら、そのオーストラリアのオージービーフとやらの仲介をやるという話らしい。
怪しい…怪しすぎる。
私のセンサーが「それやめた方がええんやない?」と信号を出しているが、久々の商売の話に両親は高校生の私の嫌な予感など聞く耳なんか持つわけない。
そうして、打ち合わせだとか何だとか夫婦で出掛けることが多くなってきた。
まぁ、私はすでに手のかかる年齢でもない。
冷蔵庫さえ空っぽでなければ大概のことはやる。
ある日バイトから帰ると置き手紙が置いてあった。
“玻璃ちゃん、おかえり。
お父さんとお母さんは打ち合わせのために福岡に行ってきます。冷蔵庫のものを適当に食べてね。
鍵はちゃんと締めて寝てください。
また、電話します”
携帯電話のないこの時代、この手紙を読んでから先、両親と繋がる手立てはなかった。
とりあえず…。
のんびりするか…。
そうして、2日経っても3日経っても両親からの連絡がない。
何かあったのだろうか?
やっと、4日目にして夜遅くに電話がかかってきた。
電話口の声は母だ。
「玻璃ちゃん、なかなか連絡できんでごめんね。大丈夫?お父さんとお母さん、明日には帰るから。待っとってね。」
何だか母の声が潤んでいるような気がして気になった。
約束通り次の日、両親は帰ってきた。
何だかこの世の不幸を全部背負ってきたようなオーラを纏っている。
「仕事、うまくいったん?」
私の問いに父はだんまり。
母が
「この話、ダメになったんよ。」
はい、来ました!
私のお告げ大正解!!
…と喜んでいる場合ではない。
この先の事を聞くのもはばかられ、私はそっと2階の自室に戻った。
後から聞いた話だが、このオージービーフ事件でまたもや借金を抱えた事が判明した両親は、手持ちのお金ギリギリで田舎の古びたモーテルにのり弁をひとつ買って泊まり、二人で分けて食べたそうだ。そして、その時に波瀾万丈の人生の中でも初めて心中を考えたという。
でも、私の事を思うとどうしてもできなかったと。
あの母からかかった電話…あの電話で私の声を聞いて、死神の誘いをキッパリと断ったという。
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貧しさに負けた
いいえ世間に負けた
この街も追われた
いっそきれいに死のうか
〜昭和枯れすすき〜さくらと一郎
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そして、私の高校生活最後の夏休みが目前まで来ていた。
とうとう、1ヶ月間の東京体験生活の始まりだ。
ではまたお会いしましょう。
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