ありがとう、行ってきます
おいでませ。玻璃です。
まだ朝晩は冷えるが、日中は穏やかな春の表情が見え隠れする萩の街。
いよいよ3月に入った。
もうすぐ我が高校の卒業式。
そろそろ下宿を引き上げる準備をしないと…。
と、言っても元々下宿にあった電化製品や、ベッド。
布団はそんなに新しくもないので、そのまま処分。
洋服も東京で買えばいい。
私の荷物は大きめの段ボールひとつだけ。
近くのスーパーのサービスカウンターからその荷物を東京の両親のところへ送った。
あとは卒業式を待つばかり。
卒業。
寂しさもあるけど、私にはやっとこの街を出ることができる未来への出港式のように感じた。
この頃の私は萩の街が良い思い出の街とは到底思えず、居心地の悪い街になっていた。
卒業式といえば悲しいのは友人との別れ。
でも、卒業式の数日後にはユキエが東京に遊びに来ることになっていたし、ヨーコやナカさんとはまた帰郷した時に会う約束でしっかりとお別れできた。
そして中学から仲の良いひろべえは東京の専門学校。
他の仲良しの列車通学メンバーもみんな東京に就職だったので、友人たちとの距離感はそんなに遠くなる感覚はなかった。
なぜか卒業式の日のことをあまり覚えていない。
確か晴れた日で、卒業式が終わったその日のうちに遅い時間の新幹線で東京に向かった。
私はその時に全く後ろを振り返っていなかったと思う。
前だけを見つめて進むことができたのは、もう実家がなくなっていたからかもしれない。
最後に私は自転車を走らせて菊が浜に行った。
この浜の側にあった家で生まれ育ち、たくさんの思い出が詰まった浜。
浜にあったブランコで変なおじさんに声をかけられた。
波打ち際に打ち上げられた海藻を拾って松林でやったおままごと。
舞姉さんに教えてもらって、始めて乗れた補助輪なしの自転車。
そしてその家は追われても、夏になると泳ぎに来たり、友人と波にも負けず手こぎボートに乗って沖に出た海。
何よりもこの気持ちの良い海風。
私を包み込む潮の香り。
さらさらと指の間をこぼれ落ちる白い砂。
私は菊が浜の穏やかな海と少し斜めに見える指月山の美しいはぎいろの景色ををしっかりと目に焼き付けた。
ありがとう、我が故郷。
行ってきます。
ではまたお会いしましょう。
皆さん、これまで私の自分史エッセイ「はぎいろモンタージュ」を毎週読んで頂き、誠にありがとうございました。
皆様のスキとコメントに励まされてここまで綴ってくることができました。
来週から番外編として、関東での私の生活を3回に渡り書き残しておきたいと思います。
そちらもお楽しみに。
また、スタンドエフエムで毎週土曜日に第一回から声で「はぎいろモンタージュ」のサイドストーリーをお届けしています。
こちらで振り返りながら、また更にこのエッセイが楽しめると思います。