同病相憐れむ
おいでませ。玻璃です。
いつものように業間休みに、ユキエ、ヨーコ、ナカさんと4人組で輪になって喋っていたら、チビしんがやってきて廊下に呼び出された。
今は使っていない空き教室があるのだが、そこに行けという。
「何ですか?」
「いや、行けばわかるから。事務の方から話がある。」
頭の中にはクエスチョンマークがいっぱいだ。
そして、嫌な予感しかしない。
空き教室に入ると、数人が集められ、適当な間隔を空けて座っていた。
学年も男女も関係ないようだ。
しばらくすると学校の事務室の人が現れた。
「今日集まって頂いた皆さんは、授業料の未納が続いている人たちです。
これからお渡しする資料に詳しく書いてありますが、お家の方に必ず見せてください。このままでは皆さんは学校生活を続けることは難しくなります。きちんと保護者の方と話して、手続きをされてください。」
何だって?
まさかの授業料滞納か~い!
やっぱり払えてなかったんだな。
いやいや、それにしてもなんで一人ずつ呼び出さんの?
みんな集めてする話?
頭の中に誰に対するものかわからない怒りとも絶望とも少し違う黒い感情が一気に流れてきた。
「勉強嫌いだけど、せめて高卒だけは」…と思っていたのに、まさかのお金のために退学か。
そう思いながら、手にしたのは奨学金の案内書。
この場合、勉強の優秀者が受けられるものではなく、生活に困っている人のためのもの。
そして、何のためかはわからないが、暫くその場で待機させられた。
生徒だけで残された教室。
なんとなく、隣に座っていた同級生の女子に話しかけた。
「いや~まいったわぁ。まさかこんな呼び出しとは思わんかった。」
「私も。実はウチ最近親が離婚してお母さんが大変そうやなとは思っとったけど。」
「そうなん?ウチは親の仕事が上手く行ってなかったからなぁ」
そう話していると横から男子が入ってきて
「ウチは父ちゃんが入院しとる。」
「へー、みんないろんな事情があるんやね」
同病相憐れむ…。
意味はちょっと違うかもしれないが、そんな言葉が浮かんだ。
「まぁ、うちらで考えても仕方ない事やね。」
「この中に学校やめてしまう人がおるんやろか?」
そうして、なんだかわからない連帯感に包まれてどこかホッとした。
こんな時も私はすぐに近くにいる人と仲良くなってしまう。
でもその個性が今回は自分のショックを和らげて救われた。
きっと、その時に話した同級生もそうだろう。
私と話していた子も、その話を近くで聞いていただけの子も、来た時には引きつっていた顔も教室を出る時には少々緩んでいた。
家に帰って資料を親に渡した。
この頃、本当にお金に困っていた両親は速やかに手続きをしたようで、なんとか私は高校生活を続ける事ができた。
私の夢…”東京の放送関係の専門学校に行く”という夢はあっけなく空中分解が確定した。
だが、この時すでに夏休みに一日体験入学の予約をしていたので、それは参加することにした。
夏休みは東京に住むさゆり姉さんのところで一か月お世話になって東京生活を体験することになっていたから。
自分が起こしたことではないけれど、この時ばかりはなぜ公立高校に入らなかったかと後悔してばかりだった。
ヤケクソになりたい気持ちを支えたのは、せめて「高卒」の肩書だけは欲しい、その気持ちから。
「将来好きな人ができて結婚したくなった時に、高校中退ということで反対されたら嫌だから」という少女らしい理由からだが。
こうして、なんとか首の皮一枚で繋がった私の高校生活も残すところ一年弱。卒業までのラストスパートが始まった。
ではまたお会いしましょう。
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