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昭和の父ちゃん

おいでませ。玻璃です。
家族と過ごす東京のお正月が楽しかっただけに、萩の下宿に戻ったときはより一層部屋の冷たさが身に染みる。

暖をとるのも小さな電気ストーブと電気毛布のみ。
お風呂に入って暖まったら、早めに布団に潜り込んで本を読む。
この生活もあと少し。

そしていよいよ、高校生活最後の3学期が始まる。
大学にも専門学校にも行かない私にとって、学生生活残すところ2ヶ月間。
学校では仲良しグループのヨーコとユキエ、ナカさんといつものようにしゃべくり漫才のような休み時間を過ごすのが日課。
仲良しメンバーも卒業に向けて進路がどんどん決まっていく。
ヨーコは美容学校、ユキエは市内の大きな衣料品雑貨店、ナカさんは会社事務。そして私は東京でフリーター。
それぞれの道に進むまでの2ヶ月ちょっと。
大人になったような錯覚に陥った私たちは、気が緩んでいた。

自習が2時間続いた日があった。
その日はユキエと二人でこっそり抜け出して学校近くの美容院でパーマをかけてきた。
帰りの会で、チビしんに

「おまえらなんか髪型が朝と違わんか?」

と言われたがすっとぼけた。
チビしんは、きっとわかっていたと思うが残り2ヶ月だ。
もう言っても仕方ないと思っているようだ。

調子に乗った私たちは、ヨーコの家に集まって酒を飲みながらカラオケ大会をしていた。
ヨーコの家はかなり田舎の地域で、自宅カラオケもオッケーだった。
カセットをガチャリと入れるタイプで歌詞の本が別に付いていた。
ヨーコのお父さんのカラオケセットなので、入っている曲は演歌ばかり。
みんなでテレサテンシリーズを歌ったり、デュエット曲の「居酒屋」や「銀座の恋の物語」を歌う。ユキエは決まって吉幾三の「雪国」だった。

酔っ払って気が大きくなった私たちは、

「なんか、新しい曲が歌いたくない?」

と、こっそり玄関から靴を持ってきて窓から抜け出し、近所にあるヨーコの先輩が経営するスナックに行った。
そこでもお酒を飲んで、今度は若者向けの曲をカラオケで歌う。
気分良く歌ってはしゃいでいるとスナックに一本の電話が。
ヨーコのお父さんからだった。
しばらくするとヨーコのお父さんが呼んでくれたタクシーが来て、そのタクシーでヨーコの家まで帰る。

ドキドキしながら玄関を入ると、お父さんが仁王立ちで待ち構えていた。
すぐにその場に並んで正座させられ、大目玉を食らった。

「お前らはまだ学生なんやからな、ここで学校にばれて卒業できんかったらどうするんじゃ?家で飲んで歌うのは大目に見るけど、外で飲むのはあと2ヶ月ないんやから我慢せぃ!」
大きな声で怒られたが、なんだかそこに愛情を感じた。
よその子でも怒るときは怒る。
昭和の父ちゃん万歳!!
もっともだと思えば素直に謝ることができる。
私たちはそれぞれお父さんに向かって頭を垂れながら
「ごめんなさい。」と謝った。
その後に寒いだろうと温かいお夜食を頂いたことで身体も心も温まった。

そうして、毎日を友人と過ごすうちにとうとう卒業式は目前まで迫っていた。

ではまたお会いしましょう。

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