水玉の記憶
おいでませ。玻璃です。
夏休みもあと数日で終わりという時に萩へと帰ってきた私。
自宅に帰るとなんだか様子が変だった。
家の中の様子が落ち着かない。
「玻璃ちゃん、実はこの家にはもう住めんようになったんよ。」
「へ?どういう事?」
「この家ね、もう銀行に取られるんよ。
玻璃ちゃんも自分の荷物を片付けてね。」
オージービーフで家まで取られたのか?
旅支度を解く間もなく、自分の部屋に行く。何をどう片付ければいいのか?
その日はとりあえず、旅の疲れもあり早めに寝た。
次の日は早くから起こされた。
起きてモタモタしていると玄関のチャイムが鳴った。
「おはようございます。」
スーツ姿の男性が数人、ドヤドヤと家に上がり込んできた。
そして何やら紙のようなものを家電に貼っていく。
そして、私の部屋まで入っていく。
建て増しして初めて自分の部屋ができた時に買ってもらった私の大事なレコード&カセットプレーヤーにも容赦なく紙を貼っていく。
私の部屋には高価なものはないのでたくさんの紙は貼られないが、当たり前に私の部屋に並んでいたものが、あの紙を貼られた瞬間に私のものではなくなった。
そしてこの部屋も…。
東京でのウキウキが一気に宇宙の彼方へ吹き飛んで、暗いマンホールに突き落とされた。
あまりのショックからか、その日の記憶は断片的にしか残っていない。
小さい時の記憶はしっかりとあるのに、18歳にもなったこの日の記憶がまだら…まるで水玉模様のような記憶だ。
父がいたのか?
母はどうしていたのか?
その数日の記憶が飛んでいる。
とりあえずもうこの家には住めない。
父はこの機会に東京の舞姉さんのところへ行く事になった。
東京で仕事を探すため。
この萩での負のループを断ち切るため。私と入れ違いに東京へと立った。
母は私の生活を落ち着かせてから、父を追って東京へ行く事になった。
母に連れて行かれたのは、私が通学で利用している駅からさほど離れていない、道路の脇道から少し山の方へ上がっていった一軒家だ。
そこには気のいいおじいさんが一人暮らしをしていた。
そのおじいさんの家と同じ敷地内にあるもうひとつの一軒家。
そこがどうやら下宿として貸し出している家のようだった。
私が借りる部屋は一階の部屋。
二階には中年の男性が住んでいるらしい。
今考えると高校生の娘が一人でこんなところに住んで、何かあったらどうするんだ?という環境だ。
部屋にしっかり鍵がついているとはいえお風呂は共同だし。
でも、きっと食べていくのがやっとの両親にとっては背に腹はかえられない状況だったのだろう。
私だって卒業まで半年ちょっとなのに、わざわざ東京に転校はしたくない。
だったらここで卒業まで頑張るしかない。
そうして、私が最低限暮らせるように整えて、母は自分の旅費や私にいくらか置いて行くお金を工面するため、萩からは離れて、山口市の病院で泊まり込みの付き添いの仕事を短期でしていた。
おそらく、銀行の他にも個人的な借金があったのだろう。夜逃げ同然で萩から出て、お金の用意ができてすぐに父の後を追って東京へ旅立った。
私は隠れるようにひとり、下宿の部屋。
「これから半年、どうなるんやろ?」
そんなひとり言を呟き、大きなため息をひとつ吐いた。
ではまたお会いしましょう。
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そこで、この「はぎいろモンタージュ」のサイドストーリーを声でお届けします。
12月から毎週土曜日の朝5時に放送予定です。
noteと共に第一話から振り返ってお楽しみください。
❇️初回放送12月7日(土)
「はぎいろモンタージュ 自己紹介」
サイドストーリー