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入院生活で出会った人①

おいでませ。玻璃です。

大変な手術入院の中で出会った印象に残った患者さんお二人の話をしてみたい。
今日はまずお一人目から。

一回目の手術の時に二人部屋で同室だったおばあさん。
隣のベッドからは常に苦しそうなうめき声が聞こえた。
その度に、看護師さんが来て
「〇〇さん、まだお薬使えないから少し我慢してね。」
時間が来て点滴に薬を入れてもらうとしばらく寝息一つ聞こえない状態で寝てしまう。

でも寝ている間隔がだんだん短くなって、
「看護婦さぁーん、看護婦さぁーん」
「痛いよ~痛いよ~、怖いよ~怖いよ~」
悲痛な叫びが多くなった。
更にガシャン!といろんなものをドアに向かって投げつけているようだ。

私が仕切りのカーテン越しに
「大丈夫ですか?」
と声をかけると
「看護婦さん呼んでください!痛いよ~」
私は何度となくナースコールのボタンを押した。
その度に看護師さんは来るが、何をやれるわけでもなく声掛けをして部屋から立ち去る。

そして、ある日の夜、尋常ではない叫び声が聞こえた。
地の底から悪魔に足を引きずりこまれそうになっているような恐怖の雄叫びが。と、その時…。
ビシャ!!
仕切りのカーテンに悪魔の黒い血しぶきが飛び散った。
おばあさんが吐いた黒い液体。
声がピタッと止まった。
慌てて看護師さんを呼んだ。すぐに駆け付けた看護師さんがおばあさんを確認してすぐに、歩けない私をベッドごと廊下に運び出した。
その後ナースステーション横の小さな空間で一晩を過ごした。
空き部屋がない状況だったらしい。

バタバタとした状況の中眠れるはずもなく、うつらうつらしながら朝になった。

「お部屋変わりますからね。」
私は違う階の大部屋に移された。
その後母がお見舞いに来た時におばあさんのことを話してくれた。

おばあさんは末期の肺がんだったそうだ。
この頃はホスピスなど一般的ではなく痛み止めも時間制限があり、おばあさんは痛みに苦しんで苦しんで、あの晩息を引き取ったということだ。

母は私が病室を移ったことを知らず、あの病室に行ったら私がいなくて部屋をのぞき込んでいた時に、おばあさんのご家族に挨拶をされて事情を聞いてきたとのこと。

あの最後に聞いたおばあさんの叫び声。
30年経った今でも心の奥に録音されている。
ガンの怖さ、死への恐怖。
あの頃はまだまだ本人への告知はしていないことが多かった。
おばあさんは痛みだけではなく、大きな疑いと不安の中で絶望していたことだろう。

初版が1990年に発売されていたこの本を退院後に読んだ。

おばあさんの姿が生々しい状態で読むのは辛かったが、この本二冊を読んでホスピスケアに関心を寄せた。
母にも貸したらしっかりと読んでくれて
「玻璃ちゃん、私もガンになったら、はっきりと告知してね。末期になったらホスピスに入れてね。」
と、言っていた。
結局、脳梗塞になってしまったのだが。

この時の経験が、私がいま終活に取り組んでいる元となっているのかもしれない。
ほんの数日間、私の人生を通り過ぎたおばあさんに教えていただいたことは計り知れない。

ではまたお会いしましょう。

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