流氷に憧れて【3】冬の知床一人旅
私はバスを降り、市内の数少ない喫茶店で、特産のジャガイモを使ったスイートポテトとコーヒーで一服した。この時、スマホの充電器がないことに気づいた。フレペの滝で落としてしまったのだろう。旅の目的であった流氷ウォークの時間が近づいていたので、あまり気にせず急いで集合場所に向かった。
流氷ウォークのポイントに到着した。コートを脱いで専用のドライスーツを着用し、ガイドの後を歩いていざ海岸へ。
海岸線の境界がもはやわからないまま、気づいたら流氷の上を歩いていた。近年は温暖化の影響で、流氷が小ぶりだというが、今年は近年稀に見る流氷らしい光景が広がっているのだという。そのせいか、海の上を歩いているというよりは、先ほどの踏み固められた雪原の上を歩いているような感覚だった。それでも、所々に大きな氷の塊が盛り上がっていて、その不規則な広がりは、月かどこかに降り立ったような感じもした。
これほど遠くまで歩いて来れることはなかなかないです、と言うガイドの後に続き、どんどん海岸から離れて夕日に向かって歩いていく。ドライスーツのおかげで暖かったが、私のスマホは寒さで電源が付かなくなった。私は写真撮影を諦め、流氷の塊にソファーのように腰掛け、一人で夕日を眺めた。とても美しかった。
流氷の海にダイブすることは、このツアーのお決まりだ。しかし今年は流氷が盛大すぎて、なかなか海の隙間が見当たらない。仕方なく、ホロベツ川が海へと注ぐ河口付近でダイブすることとなった。河口付近の川は一晩で3センチ程度の厚さに凍
るらしく、昨晩凍った分だという薄い氷をガイドが砕き、ダイブできるようにしてくれたのだ。
ドライスーツで飛び込んだとき、ツアーに居合わせた他のお客さんたちが、私のスマホが使えないことを知って写真を撮ってくれた。
河口の透明な氷は、よく見ると、中に雪の結晶を閉じ込めたまま凍り付いていた。あまりに美しかったが、誰もそれに気づく人はいなかった。
夕日がちょうど沈むころ、海岸に戻り、ドライスーツを脱いだ。その後、お客さんが私に写真をたくさん送ってくれて、おかげで流氷ウォークの写真を残すことが出来た。あの河口の美しい氷の写真は除いて。