【超短編小説】年雄と一本の傘
雨が降っていたので、年雄は傘をさしてコンビニに行った。
途中青年とすれ違った。
花柄の傘だったので、"男の割に可愛い傘を持ってるな"と気になった。
コンビニで期間限定のポテトチップスを買い、出口付近の傘立てに向かった。
傘立ての前に、女性が1人立っていた。
年雄は「すみません」と声をかけ、自分の傘を取った。
その時、女性が「はぁー」と大きなため息を吐いた。
年雄が振り返ると、女性は怒りと悲しみに満ちた、なんともいえない顔で立っていた。
振り返って気付いたが、女性は赤ちゃんを抱っこしていた。
年雄は傘をさして歩き出したが、その女性が気になったので、傘立ての前に戻り女性に声をかけた。
「どうかしましたか?」
女性は答えた。
「傘を盗まれました」
年雄はもしかしてと思い、「どんな傘ですか?」と聞いた。
「花柄の傘です」と女性は答えた。
絶対あいつだ!ここに来る前にすれ違った青年!
年雄は「犯人見ましたよ!」と言いかけてやめた。
証拠がないからだ。
年雄は「これ使ってください」と傘を差し出した。
女性は戸惑っていたが、「家近いんで」と言って女性に傘を渡し走って帰った。
次の日、コンビニか200メートルほど離れた所に、花柄の傘が捨ててあった。
一本の傘。
誰が買っても同じ値段。
でも、赤ちゃんを抱っこしている母親が持つ傘と、盗んだ青年が持つ傘とでは価値が全く違う。
浜本年雄40歳。
次に青年に会ったら、説教と共に体罰も加えようと思う。
大人だから。
ただ、青年の顔は覚えていない。