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「銀河鉄道の夜:著.宮沢賢治」を読んでみた


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▪️本書の要点

  1. 気弱な少年ジョバンニは、学校でも職場でも冷たくあしらわれ、気を許せるのは親友のカムパネルラだけだった。

  2. お祭りの夜、ジョバンニはいじめっ子のザネリにからかわれ、一人寂しく野原で空を見上げていた。そこに列車の音が聞こえてきて、気がつくとカムパネルラとともに銀河を駆ける汽車に乗っていた。

  3. 旅の途中で、ジョバンニは不思議な人たちと出会い、本当の幸いについて考え始める。

  4. 銀河鉄道の旅から帰ったジョバンニを衝撃的な事実が待ち受けていた。

▪️本書の要約

孤独な少年ジョバンニ

本当は星だと知っていた

den-belitsky/gettyimages

その日の授業は星についてだった。
黒板に吊るされた大きな黒い星座の図に描かれた銀河帯。川だと言われたり、乳が流れたあとだと言われたりする、このぼんやりと白いものの正体は何か。
先生がそう問うたとき、ジョバンニはそれは星だとわかっていた。けれども、家計のために毎日働いていたジョバンニは、疲れてもう何もよくわからないような気持ちになっていた。だから、指されても真っ赤になるばかりでうまく答えることができなかったのだ。その様子を見て、いじめっこのザネリが、くすっと笑う。

ジョバンニのことを気にかけてくれるのは親友のカムパネルラだけだった。ジョバンニの次に指名されたカムパネルラも、本当は答えをわかっているはずだった。
あれの正体が星だということは、カムパネルラのお父さんの博士のところで、いっしょに読んだ雑誌に書いてあったのだ。けれどもカムパネルラはもじもじと立ったまま答えなかった。ぼくのことを気の毒がってくれたのだとジョバンニにはわかった。

活版所では冷たく笑われている

放課後、同じ組の子どもたちが今夜の星祭の相談をしているのを尻目に、ジョバンニは校門を出て活版所へ向かった。ジョバンニの仕事は活字拾いである。今日もジョバンニは、手渡された一枚の紙切れをもとに、小さなピンセットで粟粒くらいの活字を次から次へと拾いはじめた。ジョバンニは職場でも冷たく笑われている。

だが、仕事を終えて、銀貨を1枚受け取ると、ジョバンニはうれしい気持ちになった。外へ飛び出ると、パン屋でパンの塊を一つと角砂糖を一袋買って、病気の母の待つ裏町の小さな家へと急いだ。

お父さんの「らっこの上着」

「ねえお母さん。ぼくお父さんはきっと間もなく帰ってくると思うよ。」
ジョバンニは食事をしながらそう切り出した。今朝の新聞に今年は北の方の漁が大変よかったと出ていたからだ。父は漁を終えて帰ってくるかもしれない。
お父さんは、「次はらっこの上着をもってくる」と言っていた。そのことで、ジョバンニは級友にからかわれていた。いじめに加わらないのはカムパネルラだけだ。

角砂糖はお母さんの牛乳に入れてあげようと思って買ってきたのだが、今日はまだ牛乳が来ていなかった。ジョバンニは牛乳をとりにいきながら、今夜の銀河祭をながめることにした。一時間で戻ると言ったけれど、お母さんはカムパネルラもいっしょなら心配はないからと、もっと遊んでおいでと言ってくれた。

蝎や勇士のいる空を、どこまでも歩きたい

angusben/gettyimages

町の坂の下には大きな街燈が、青白く立派に光っていた。電燈に近づくとジョバンニの影ぼうしは、だんだん濃くなっていった。(ぼくは立派な機関車だ)と思いながら、ジョバンニが街燈の下を通り過ぎると、小路から出てきたザネリとすれちがった。

「ジョバンニ、お父さんから、らっこの上着が来るよ」とザネリがうしろから叫んだ。ジョバンニは、ばっと胸が冷たくなった。ぼくは何もしていないのに、どうしてザネリはそんなことを言うのだろう。
考えをめぐらせながら歩いていると、時計屋にさしかかった。ジョバンニは足を止め、そこにあった円い黒い星座早見を食い入るように見つめた。本当にこんな蝎や勇士が空にぎっしりいるのだろうか。ああぼくはその中をどこまでも歩いてみたい。

ようやく牛乳屋に到着したが、もう少し経ってから来てほしいと言われた。仕方なく街へ引き返すと、向こうから6、7人の同級生が見えた。「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ」というザネリの叫びに続いて、みんなが囃し立てた。集団の中にいるカムパネルラは気の毒そうに、黙ってジョバンニを見ていた。
みんなが橋のほうへ歩いていくのを見送りながら、ジョバンニはなんとも言えずさびしくなって、黒い丘のほうへ走り出した。

白鳥座から南十字へ向かう旅へ

「おっかさんは、ぼくをゆるしてくださるだろうか」

marumaru/gettyimages

ジョバンニは町はずれの丘の上に身を投げ出し、空へと目をやった。
今日の授業で、先生はあの空の白い帯はみんな星だと言った。けれどもジョバンニには空が先生の言ったようにがらんとした冷たい所だとは思われなかった。見れば見るほどそこには小さな林や牧場のある野原のように思えて仕方なかったのだ。

すると突然、銀河ステーション、銀河ステーションという不思議な声が聞こえてきて、突然目の前がさあっと明るくなった。
気がつくと、ジョバンニはごとごとと走る小さな列車の中にいた。すぐ前の席に、ぬれたようにまっ黒な上着を着た、背の高い子どもが、窓から頭を出して外を見ていた。頭を引っ込めてこちらを見たその子は、カムパネルラだった。

カムパネルラは、みんなもザネリも、ずいぶん走ったのだけれど追いつかなかったのだと言った。ジョバンニはどこかで待っていようかと申し出たが、ザネリはお父さんが迎えに来てもう帰ったのだという。
カムパネルラは、青ざめて、どこか苦しいというふうだった。少しすると、元気を取り戻した様子で、円い板のようになった立派な地図をぐるぐる回しながら、もうすぐ白鳥の停車場だと言った。
「おっかさんは、ぼくをゆるしてくださるだろうか」
突然カムパネルラが、思い切ったというように言った。おっかさんが幸いになるならどんなことでもするのに、おっかさんのいちばんの幸いはなんだろうかと今にも泣き出しそうになっている。ジョバンニはびっくりして「きみのおっかさんは、なんにもひどいことないじゃないの」と叫んだが、カムパネルラは何かを決心しているようだった。

ジョバンニの切符

人を押しのけることが、姉弟の幸いになるだろうか

汽車は白い立派な十字架の立った島を通り過ぎ、白鳥の停車場に止まると、再び走りはじめた。白鳥区の次は、名高いアルビレオの観測所へと入っていった。赤い帽子をかぶった車掌が「切符を拝見いたします」とやってきたので、ジョバンニはすっかり慌ててしまった。とりあえず上着のポケットに手を突っ込んでみると、そこには知らないうちに四つに折ったはがきぐらいの大きさの緑色のチケットが入っていた。これは天上どころか、どこでも歩ける通行券だそうだ。
「もうじき鷲の停車場だよ」とカムパネルラが向こう岸の、3つならんだ小さな青白い三角標と地図とを見比べて言った。
気がつくと、黒い洋服を着た青年が、つやつやした黒い髪の6歳くらいの男の子と、12ばかりのかわいらしい女の子を連れて立っていた。
どこから来たのかと尋ねられると、青年はかすかに笑いながら船に乗っていたのだと言った。青年は姉妹の家庭教師で、ひと足さきに本国に帰った父親のもとへ姉妹を送り届ける予定だった。
ところが乗っていた船が氷山にぶつかり沈没しはじめた。救命ボートに全員が乗ることはできない。青年は子どもたちだけでも助けようとしたが、ボートにはほかにも小さな子どもや親たちがいた。
子どもだけをボートに乗せ、キスを送る母親、立ち尽くす父親。その様子を見ていたら、前の人たちを押しのけることができなかった。そうしているうちに船はどんどん沈み、青年は3人でなるべく長く浮かんでいようと覚悟を決めた。

青年は、きっとボートは助かったにちがいないと祈るように言った。ジョバンニは考える。氷山の流れる北の果ての海で、小さな船に乗って、一生懸命働いている人がいる。ぼくはその人の幸いのためにいったいどうしたらいいのだろう。

みんなの幸いのために

Alexandr Yurtchenko/gettyimages

汽車は川岸をどんどん進んでいった。川の向こう岸がにわかに明るくなり、大きな真っ赤な火が燃えているのが見えた。ジョバンニが何の火だろうと言うと、「蝎の火だな」とカムパネルラが地図を見ながら答えた。
「あら、蝎の火のことならあたし知ってるわ」と、女の子はお父さんから何遍も聞いたというお話を語り始めた。
昔のバルドラの野原に一匹の蝎がいた。ある日、蠍はイタチに食べられそうになり、必死で逃げているうちに、井戸に落ちて溺れてしまう。「どうして私は私の体を黙ってイタチにくれてやらなかったろう。そしたらイタチも一日生きのびたろうに」と蠍は悔いた。これまでいくつもの命をとって生きてきたのに、イタチに命をとられそうになったら逃げてこんなことになってしまった。
そして祈った。「どうか神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむなしく命を捨てずどうかこの次にはまことのみんなの幸いのために私の体をおつかい下さい」。

そして蠍の体は真っ赤な美しい火になって燃え、夜の闇を照らしているのだという。女の子は、あの燃えている火がそれに違いないと言った。
ジョバンニは、5つの三角標がちょうど蠍の尾やかぎのようにならんでいるのを見た。蠍の火は音もなく明るく燃えていた。

天上に行くには、南十字で下車しなければならない

サウザンクロスが近づき、青年は姉弟におりる支度をするように言った。男の子はジョバンニたちと別れたくないようで、もう少し汽車に乗っていたいと駄々をこねた。
ジョバンニはたまりかねて、「一緒に乗って行こう」と言った。
どこまでだっていける切符があるんだから、と。しかし、汽車がきれいな十字架の向かいまで来ると、青年は男の子の手を引いて出口へと向かっていった。女の子も2人に「さよなら」を告げ後に続いた。

カムパネルラと二人きりになったジョバンニは「どこまでもどこまでも一緒に行こう」と言いながら、本当の幸いとは何だろうと考えはじめた。本当にみんなの幸いのためならばあの蠍のように自分の体を灼いてもかまわない。

そう言ったジョバンニに、カムパネルラは「僕だってそうだ」と答えながら眼に涙をうかべた。するとカムパネルラは、窓の遠くに見えるきれいな野原を指して、「あそこが本当の天上なんだ」と叫んだ。みんな集っていて、カムパネルラのお母さんもそこにいるという。だが、ジョバンニには、野原はぼんやり白くけむっているばかりで、そうは見えなかった。
ジョバンニはもう一度言った。「カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねえ」。
振り返ると、さっきまでそこに座っていたはずのカムパネルラの姿が消えていた。ジョバンニは飛び上がると、窓から顔を出して大声で泣いた。あたりがいっぺんに真っ暗になったかのようだった。

カムパネルラは、もうあの銀河にしかいない

「ジョバンニ、カムパネルラが川へ入ったよ」

ジョバンニはもとの丘の草の中に眠っていた。丘を駆けおり、牛乳屋で今度こそ牛乳を受け取ると、大通りへ出た。さっきカムパネルラたちが歩いていった橋の近くで、女の人たちがひそひそと話をしているようだった。橋の上にも明かりがたくさんある。
ジョバンニはなぜだか胸が冷たくなって、近くの人に「何かあったんですか」と叫ぶように聞いた。
「こどもが水へ落ちたんですよ」という声に、ジョバンニは夢中で橋のほうへ走った。橋の袂から飛ぶように河原へおり、人だかりのほうへ向かう。すると、さっきカムパネルラといっしょだったマルソが駆け寄ってきた。
「ジョバンニ、カムパネルラが川へ入ったよ」

「もう駄目です。落ちてから45分たちましたから」

カムパネルラは、舟から落ちたザネリを助けようと川へ入った。そして、ザネリを舟のほうへ押してよこしたあと、姿が見えなくなったのだという。ザネリはうちへ連れられていったが、まだみんなはカムパネルラを探している。
カムパネルラのお父さんは右手に持った時計をじっと見つめていた。下流の方の水には銀河が写り、空のようであった。
ジョバンニは、カムパネルラはもうあの銀河のはずれにしかいないというような気がしてならなかった。みんなはまだ、カムパネルラが見つかることを待っていた。けれどもカムパネルラのお父さんがきっぱりと言った。

「もう駄目です。落ちてから45分たちましたから」
ジョバンニは博士にかけ寄り、ぼくはカムパネルラといっしょにいたのだと言おうとしたが、声が出なかった。すると博士はジョバンニに丁寧にあいさつしてから、一昨日ジョバンニのお父さんから手紙があったこと、きっともうすぐ帰ってくるだろうことを教えてくれた。そして、「あした放課後みなさんとうちへ遊びに来てくださいね」と言いながら、川下の銀河のいっぱいにうつったほうをじっと見つめていた。
ジョバンニは胸がいっぱいで、早くお母さんに牛乳を持って行ってお父さんの帰ることを知らせようと走り出した。

▪️すゝめ

不条理にやってくる親しい人の死をどのようにして乗り越えるか。『銀河鉄道の夜』は賢治が最愛の妹トシを亡くしたために書かれたとも言われている。銀河鉄道の旅は、半身を失った賢治の傷を癒すために必要とされたのではないかと思われる。

「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という思想を持っていた賢治は、やりきれない死を前にして、「みんなの幸いのため」という意味を見出そうとしていたのかもしれない。
さまざまな解釈が加えられ、多くの謎を含んだ本作は、要約もまた一つの解釈にすぎない。要約を読み終えたら、本文にあたりながら、あなた独自の解釈に挑戦していただきたい。

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