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Vol.184【いじめをなくす】(2012/8/2)

ロンドンオリンピックが始まり、大津でのいじめ問題の報道も少なくなってきた。しかしこの夏休みの間に、滋賀県警による前代未聞の全校生徒への聞き取りが行われている。

朝日新聞で、いじめについて著名人がアドバイスする連載が始まっている。「いじめている君へ」「いじめられている君へ」「いじめを見ている君へ」
と題して、それぞれの立場の子どもたちに、各界の大人たちが語りかけている。ボクシングの内藤大助さんや、作家の辻村深月さんの「いじめられている君へ」は、ご本人の経験をもとに語られていて、胸に迫るものがある。
また、「いじめを見ている君へ」での作家の志茂田景樹さんのお話は、現実的で説得力があり、子どもと大人、両方への呼びかけとなっていた。
朝日新聞「いじめと君」

2012年7月21日(土)、毎日放送の「報道特集」で、短時間ではあったが私のいじめについてのインタビューが放送され、大きな反響をいただいた。
私は中学校の教師を20年間していた。いじめが起きた事もある。その解決に向けての取り組みにおいては、子どもも教師(大人)も、多大なエネルギーを必要とする。正しい情報収集、その整理、分析、指導、連絡、関係機関との協力、保護者との連携、説得、納得させる指導力、全体への指導、いじめ根絶のための新しい価値観の提示と浸透。
どれが抜けてもうまく行かないし、タイミングを逃すと取り返しのつかない場合もある。

「いじめ」という言葉に、子どもたちは、とても敏感だ。
「それって、いじめやろ」「先生、そんなん、いじめですよ」
「これは、いじめと違うで」

私たちが思っている以上に、子どもたちの心は繊細だ。自分に自信を持ち。安定した友達関係を作り、何の心配もなく毎日を過ごしている子どもなど、ほんの一握り、いや、もしかすると、いないかもしれない。
しかし、ご自身の思春期を思い出し「そんなことなかったけどなあ」と、大人は考えてしまう。それが、「危機を見落とす」最初の危険な間違いである。
私たちの子ども時代と、いまの子どもたちを取り巻く環境は、全く違う。本質は変わらない。しかし、本質に影響を与える、環境が違うのである。そこを、間違ってはいけない。
見えているつながりだけが、子どもたちの関係を表すのではない。
携帯電話、メール、SNS、オンラインゲーム。大人が知らないところで、子どもたちの世界が作られている。情報が増える分、対応するべき現実が増える。その分、不安が増しているのだ。

どの子も、自分や友達関係への不安を抱えながら、「自分らしくありたい」と願いながら、日々を懸命に生きている。ときには、友達にお愛想して自分らしくない事をしてしまう。後悔する。でも仲間はずれは嫌だ。あいつ、根性なし、と言われるのも嫌だ。心は千々に乱れる。

子どもたちの気質の変化、環境の変化。対応すべき要因を挙げていけばキリがない。もちろん、そういった要因を分析して把握し、適切に対応していくことも重要である。
しかし何が変化しようと、私たち大人、指導者、親、教師が持っておくべきものがある。それは、「365日、一日たりとも、いじめは絶対に許さない」という確固たる姿勢である。それを常に、児童生徒と保護者、学校の同僚、地域に発信する。言葉で、文字で、態度で。そして実際の指導姿勢で。
その確固たる姿勢を支える「理念」が必要だ。根底に流れる考え方だ。
私はそれは、「子どもたちの人生は、全く区別なく、どの人生も全て素晴らしい、そうあるべきだ」という信念であると考えている。

どの子どもにも、誕生の秘話があり、感動があり、涙があり、愛情がある。どの子どもにも、これまでの歴史があり、これから続く輝かしいストーリーがあるのだ。
この観点が例えば、学校の教師の血となり肉となって流れていれば、「いじめは絶対に許さない」という、燃え立つような覚悟が湧いて来るはずである。
その覚悟が、気になる児童生徒への、ちょっとした声かけや行動を生む。そのちょっとしたことが、変化を生む。その変化は、目の前の子どもの命を救うことにつながるかもしれない。
これは、学校の教師はもちろん、全ての大人に求められる責任だ。

いじめをなくしたい。いじめをなくす。いじめで悲しみ、苦しむ子どもたちを救う。そのために大人ができることを、私はこれからも全力で発信していく。先日お伝えした、奈良市「はぐくみ道場」(奈良市内公立小・中学校の先生方のための学びの場)では、子どもたちの心の状態を把握できるアンケートに取り組んでいる。手をこまねいて、いじめが起こってから対応するだけではいけない。予防的に、事前指導に力を入れ、予測して効果的に対応していく事が重要だ。
革新的な手法と、根底に流れる信念。

亡くなられた生徒さんのご冥福をお祈りしながら、決意を新たにしている。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

(感謝・原田隆史)2012年8月2日発行
*発行当時の文章から一部を変更している場合があります。

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