「わたし」は夏が好きだった #かくつなぐめぐる
今年の夏も蒸し暑さに体が負けちゃっていた。予想最高気温が40度なんて日も。夏が好きだったわたしはもうここにはいない。
そんな暑さのなか、台風が日本列島に沿って走り抜けていくと、夕刻の風に涼気を感じる。
眠るころ、寝室東側の窓を開けると快適な風が入り込む。足の先に置いてある扇風機がその風を頭の方まで回してくれる。
夜の調べはカエルたちのアルト調強めの合唱が終わり、鈴虫のソプラノ調ソロコンサートが始まっている。ベッドに横になって聴いている「私」の頭の中に、まだ夏が好きだった小学生の「わたし」が顔を出した。
わたしが住んでいたところは田んぼが広がる田舎で、小学校も1学年1クラスだった。ファミコンでスーパーマリオが流行りだしたのは小学校高学年の時だったから、専ら遊びは外遊び。
春は若草色の田んぼにピンクのレンゲ草の絨毯ができて、その真ん中でれんげを積んでネックレスを作った。ミツバチが密を集めているから、真似してレンゲの花びらのフサをそっと抜き、すぼめた口でちゅっと吸ってみる。ほんのりと甘みを感じられるが、あんなに甘いはちみつになるなんて信じられないって思っていた。
男の子たちと用水路にいるタニシをとったり、ザリガニ釣りをした。家に持って帰るとザリガニは臭うので、時間差のキャッチアンドリリース。
大人になった私は虫が大の苦手で、ミツバチが近づけば逃げることしか考えられないし、ザリガニなんて触ることもできないのに。
小学生って強い!
わたしはスカートをはくのがきらいな子で、いつも長ズボン姿。髪もずっとショートヘアだった。
目がくりくりっとして、めちゃくちゃ可愛かった弟と一緒に買い物に行くと「活発そうなお兄ちゃんに可愛い妹さんね」と知らないおばさんから声をかけられることが多々あった。
「わたしがおねえちゃんだよ!」と声には出せず、おばさんから離れてむくれていた。
自分が男の子みたいにしているわりに、そう言われると少なからずショックを受けていたんだね。
変わらないね。今でも私はショートヘアが好きだし、ジーンズにTシャツとかパーカーを合わせるスタイルが好き。
かと言えば、美しいドレスや可愛いワンピース、ハイヒールやキラキラのジュエリーにときめく私もいる。
キラキラしたものはわたしも好きだったじゃない!パッケージがきれいな『宝石箱』というルビーやエメラルドみたいな、カリッとした氷粒が入っていたアイスクリームがあったの。キラキラをバニラアイスの中から見つけると嬉しかったな。
あの頃の夏は今ほどの気温上昇はなく、外で走り回っていた。夏休みは宿題もしないで、ちゃんと休みを楽しんでいた。
安心して遊べる環境だったことは、なんてありがたいことだったんだと思う。
地域の大人たちが、田んぼや畑をやりながら、草むしりしながら、窓を開け網戸越しに、子どもたちを見守ってくれていた。
遊び回って暑くなると、扇風機の前で「あー」とボイスチェンジャーみたいに遊びながら涼しさを独占する。
「ワレワレハ ウチュウジンダ」
ケラケラ笑って過ごす夏が好きだった。
私、ちゃんと子どもの時間を過ごせていたんだな。
懐かしい「わたし」との再会だった。
逆に「わたし」が現代にタイムスリップしてきたら、マスクしてスマホ片手に下ばかり見ている人の群れを見て、宇宙人みたいだと怖くなるかもしれないね。