チュベローズは甘いか
わたしにとってのチュベローズの思い出は、甘美なものではない。正反対の「怒り」「悲しみ」「絶望」というネガティブな言葉が並ぶ。
フラに専心していたころ、ハワイアンソングの中に出てくる花、チュベローズに興味があった。
どんな香りなんだろう、実際に嗅いでみたい。しかし、地元の花屋さんでは見かけない。
ハワイアンイベントで球根を購入し、家の庭に植えた。
楽しみにして、大事に育てた。そして待ち焦がれた白い花が咲いた。甘い、上品な香りを嗅ぐ。ハワイが近づいた気がして嬉しくなった。
その日、弟がパニックをおこし、手がつけられないほどの大声と怒りを表し動き回った。そして、外に行き、咲いたばかりのチュベローズを切り落としたのだ。
一瞬でわたしの想いはズタズタにされた。絶望に似た感情。それがわたしのチュベローズの思い出。
アイドルであり作家である、華々しい経歴。あなたのチュベローズはどんな香りなのか。わたしたちに何を見せるのか。興味があって手に取った。
AGE22から読み始めた。止まらなかった。スピード感ある展開。先が気になってページをめくりたい、「あ、バス停だ。降りなきゃ。うー、読んでいたい」と思わせる文章。
『チュベローズ』というホストクラブで働くことになった主人公22歳、10年後の32歳2025年。
この2025年というところが、リアリティをうむ。まだ日本にはないものが書かれているが、全くありえないという感じもしない。
この小説の中のチュベローズも、わたしと同じ、いろんな感情が吐き出された空間だった。華やかなイメージのホストクラブ、そこは勝ちたいという男同士の争いと、負けたくないという女同士の争いが渦巻く空間。
その中に入り込んだ主人公。
わたしも主人公と同じような感覚、別人格がいるような気がして出てくるのをおさえることがある。主に怒りの権化。この怒りは決して自己中心的なものではない、誰かをまもるようなマグマのようなもの。
こんな世界を書ける作家なんだ。キラキラなアイドルからは遠い世界のようだが、似ているところもあるのだろうか。
これは主人公というより、加藤シゲアキ自身が、アイドルの自分と本来の自分を感じてきたからこそ書けたのかもしれない。
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