なぜ直接的な罰を使ってはいけないのか
今回はご質問を頂いたので、それにお答えする形で記事を書いていきます。
ご質問は以下の内容となります(お名前などは削除しています)
ご質問ありがとうございます。
皆様からのご質問を受けて記事にもしていきますので、ぜひ掲示板やインスタグラムからでもメッセージお待ちしております。
ご質問者様は、愛犬と共に当教室に通ってくださっており、今では人も犬もとても楽しくレッスンを受けてくださっています。
今回のご質問を、シンプルにいうと
なぜ『直接的な罰』を使ってはいけないのか?
リードを引っ張る目的としては、犬の首や体にグッと圧迫されて負担がかかることにより、そのときの行動を止める。
「ある刺激(今回は圧迫)が現れると、その行動をしなくなる」
応用行動分析学(ABA)ではこの手続きを「オペラント条件づけ・正の弱化」といいます。
『その行動をしなくなるなら、いいじゃん!』
って思うでしょ?
そんな単純な仕組みなら、きっと皆さん悩んだりしないはず。
これには壮大な落とし穴があり、そこにハマると厄介なことが山ほどあるのです。
罰の話はすごく奥が深いので、一度では書ききれない部分がたくさんありますが
今回はその中でも重要な点に絞って、書いていきます。
用語について
まずは用語の説明を少しだけさせてください。
行動を増やす原理を「強化」
行動を減らす原理を「弱化」
といいます。
行動の直後に刺激が現れることを「正」
行動の直後に刺激がなくなることを「負」
とあらわします。
「正の弱化」とは
(刺激(罰)が現れることで、その行動が減る)
これは行動の原理でもあります。
人の日常生活でも正の弱化はたくさん起きています
例えとしては
生きていくために、危険を感じることは必要で
弱化(罰)は学習にとって強化と同じく重要であり
「害をもたらす反応を繰り返すな」ということを学ぶことで種は進化していったのですね。
今回の話では、これらとは別に一般的に広く認識されている「罰」について
いわゆる「体罰」といわれるもの。
具体的には
叩く・蹴る・身体的圧迫・大きな音・叱責・拘束など、肉体的苦痛や精神的苦痛を伴うものがメインとなります
人はなぜ直接罰を使うのか?
ご質問にあった内容でチャートを作りました。犬の目線と人の目線のチャートです。
犬が吠えたときに、リードで首に刺激を与えて、吠えをストップさせたとします。
犬側の学習として、ショックが現れて、吠える行動が減ったとします。
罰を与える人側はこんな学習になります。
人側の学習としては
罰(リードショック)を与えると、吠え止んだので(負の強化)が起きます。
次また吠えたら、同じように罰を与えることが強化されます。
これはリードショックだけでなく
「叱る」「大きな音でびっくりさせる」「叩く」なども、人側の「行動」の部分が変わるだけで、結果的に吠え止むと同じく人の行動が強化されます。
そして罰は「簡単にできて」
しかも「即時性がある」ことが多く
人側の学習は、どんどん強化されていきます。
直接罰はだんだん強くなっていく
ご質問内容にあったように「犬がひっくり返るぐらい強くショックを与える」
罰は
「罰を与える側の強度が高まっていく傾向がある」
このようなことがよく見られます。
初めのうちはリードを、軽くちょこっと引っ張ったら吠え止んだとする。
しかしそれぐらいの刺激で吠え止まなかったとしたら。
引っ張る強度は徐々に強くなっていく。
やがて、ひっくり返るぐらショックを与えないと、吠え止まなくなる。
言葉で叱るのも同じ。
初めは軽く「ダメ」と言っていたのが、
徐々に声量も大きくなり
口調も荒くなり
やがて手が出るようになっていく。
また罰する人側にも葛藤による苦痛が生じる。
罰しても罰しても効果が出ないことから、精神的に追い詰められることもあれば
さらに虐待が過激になったり、ネグレクト(育児放棄)へ発展したりする可能性も出てくる。
初めのうちは小さな罰でも、徐々に過激になる危険性が含んでいる。
もしかしたら本人も気づかないうちに強度が高まっているかもしれない。
そして罰する人も、罰せられる犬も、周りの人も
「だれも幸せにならない」方法であることを知っておく必要があります。
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