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HAPPY TORTILLA
2018年8月20日 08:07
古びた手摺をコンコンと叩きながら、海岸沿いの坂道を登る。ピーマンの収穫のバイトは、慣れた頃には終盤に差し掛かってきていた。先の予定が決まっていないことに違和感がなくなり、さて次はどうしようかなと余裕をもって構えていた。その余裕が、少し前の記憶を呼び起こさせたのかもしれない。ここに来るまえ、僕はWEBデザインの会社に勤めていた。案件ごとで稼ぐスタイルだったということもあって、時間の自由がわり
2018年8月7日 07:38
タトゥーの青年は、入り口から真っ直ぐにカウンターに向かってきた。無遠慮な仕草で僕のすぐ隣に座り、美しい発音でビールを注文する。ライブの夜に、流れる涙を拭いもせずに海際の席にいた彼とはまったく違う雰囲気だったが、彼で間違いないと僕はすぐに気がついた。にこっとして微笑み合って、僕たちはごく自然な成り行きで友達になった。 このまえは涙に濡れて伏せ目がちで気がつかなかったけど、今晩はしっかりと
2018年8月5日 17:15
「ほんとうによかったなあ、先週のライブ」 ココナツ独特の甘みが、冷たく舌の上に転がる。フクロウのデザインがほどこされた長すぎるステンレスのマドラーで、カフェラテの氷をかき混ぜながら僕は言った。 「そう言ってもらえて光栄です、歌ったのは私じゃないけど」 マスターが「私」というとき、なんともいえない違和感の風が吹くような感じがする。 「企画したのはマスターでしょ」 「そ