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味方だと思っていた支援者たちに責められた理不尽ー切なくて悲しい体験を思い出した話
数年前、私は母を看取りました。といっても、コロナ禍の最中、面会も叶わないまま母は逝きました。遠距離介護を十数年続けてきた中でのことです。母は私にとって毒親だったので、複雑な思いを抱えながらの介護でした。
そんな中、私が「これ以上の理不尽はない」と感じ、悲しさとやりきれなさに打ちのめされた出来事を、時折思い出すのです。
あれは、寝たきりだった母が体調を崩し、主治医の指示で入院した時のこと。しかも、似たような経験を別々の病院で二度も味わいました。
病状が落ち着いてきたので母の今後について話し合いたいとのこと。私は夜勤明けのまま飛行機に飛び乗り関東から九州に駆けつけた。
退院に向けたミーティングの席で、病院側のスタッフたちから言われたのはこんな言葉でした。
「寝たきりのお母さんを一人暮らしさせるなんて信じられません」
「お母さんを関東に呼び寄せて介護すべきです」
「本当にお母さんのことが気にならないんですか?」
人には人それぞれの事情がある...
母は外面が良い人で、入院中も病院のスタッフたちにはにこやかに対応していました。ですが、心の中では気疲れし、精神的に弱っていました。他の患者さんから声をかけられれば、たとえそれが認知症の症状でも一生懸命に応えようとしてしまい、結果として夜も眠れなくなる。そんな日々が続いていました。
それに福祉系の職場で働いていた私の考えはなるべくの現状維持。
80代の母が田舎から遠い関東に移り施設に入ってもずっと身体を診てもらっていた主治医はいない、時折訪ねてくれると友もいない。そのようになるのに...!
それなりに安定した暮らしの中の数々ぜーんぶゼロにしてイチからやり直すの?
在宅介護を提案された時の母の言葉は今でも忘れられません。
病室に戻って2人きりになった時に母はこう言ったのです。
「施設に入れなんて言わないよね?」
「施設に入るくらいなら、死んだ方がマシ。」
母は泣きながら訴えました。「多少不自由でもいいから、自宅で暮らさせてほしい」と。
私には私なりの思いがありました。でも、ミーティングの場で言い返すことはできませんでした。揉めることは本意ではなかったし、遠距離介護をしている身では頻繁に見舞いに行くこともできない。入院中の母を人質に取られているような気分で、私は小さく「本人の意向といろいろな事情がありまして、ご心配をおかけしてすみません」とだけ言いました。
その場で泣きたかった。泣けるものなら泣きたかった。
夜勤明けで踏ん張って出席している自分に対して、
「ネグレクトするのか」とでも言わんばかりの言葉を浴びせられるなんて。
生活費の援助もしている、遠距離介護だってしている、そんな自分に向けられる言葉がそれなのか。
母は確かに良い医療を受けたと思います。
毒親だった母ですが、外面の良さのおかげで病院や訪問看護チームからは好意的に見てもらえていました。
でも、その一方で、母のために働き、生活を支え、介護を続けてきた私の存在は、彼らにとって「鬼のような娘」「愚かな娘」としか映らなかったのでしょうか。
医療や介護における「支援」とは、いったい誰のためのものなのでしょう?
その時の自分は、支援チームの教科書的実践と満足のため....とでも言いたくなるくらいだった。
どうしても納得がいかず、母が退院した後、病院に手紙を書きました。
感謝の言葉から始め、医療とケアの質が高かったことへのお礼を丁寧に伝えました。
そのうえで、「一つだけ残念だったこと」として、退院に関する選択肢について責められたことの悲しさを書き添えました。
その手紙がどのように扱われたのかはわかりません。でも、1年後に母が再びその病院に入院した際、私は変化を感じました。スタッフたちの言葉遣いが変わっていました。責めるようなニュアンスの言葉はなくなり、母を一人暮らしさせる私の事情を決めつけるような態度もありませんでした。
それでも、まだ残念に感じる点もありました。例えば、MSW(医療ソーシャルワーカー)が退院日についての話し合いで、患者の保護者の意向を汲むように見せかけつつ、最終的には病院に都合の良い形に誘導していく。
もちろん、すべてのMSWがそうではないと信じていますが、私が関わった2件の病院では、そうした傾向を強く感じました。
側から見ているだけでは、現実の複雑さや葛藤は見えてきません。
だからこそ、私自身、介護福祉系を生業してきた者として、これからも支援者に言葉をかける時には、丁寧で慎重でありたいと強く思っています。