見出し画像

📖「別れを告げない(작별하지 않는다)」

2024年、アジア人女性として初めてノーベル文学賞を受賞したハン・ガン。

韓国人作家がノーベル賞を受賞したという嬉しい知らせは、弊社の社内でもたちまち話題となった。

光州出身で、光州事件を扱った作品やフェミニズムを扱った作品など、メッセージ性の強い作品を多く書いているらしい。

なんと、その中に「済州4.3事件」を扱った作品もあるという。

読まないわけにはいかない。

1ヶ月半ほど様々な本屋さんを探し周り、11月の下旬になってようやく出会うことができた。



本作は主人公のキョンハとその友人である済州島出身のインソン、そしてその両親を中心に話が展開されていく。

インソンの両親は済州4.3事件の生存者だ。目撃者であり被害者である2人は、大きなトラウマを抱えながら生きてきた。

この作品を読むにあたっては、済州4.3事件についてよく知っておく必要があるだろう。

この事件がどのような流れで起きて、誰によってどのようなことが行われて、その後韓国という国がこの事件をどのように扱ったのかを知らないと、なかなか理解が難しいと思う。

本作を読む前にそれなりの自習されることをおすすめする。(私個人としては、もっと色んな人たちに済州4.3事件について知ってもらいたい。)

ちなみに下記の記事で済州4.3事件について触れている。ご参考までに。

作中では、当時済州島で行われた虐殺や拷問に関する描写も多く登場する。

文字で読んでいるだけでもうっと顔をしかめてしまうような、そんな表現が多くあるが(ある意味ハンガン作家と斎藤真理子さんの表現力の賜物なのかもしれないが)、作品自体はフィクションではあるものの、このような経験をした人は実際にこの世界に大勢いるわけで、どれほど辛く悲しい思いをしただろうと胸を痛めた。

恥ずかしながらこの本で初めて知ることも多くて、やっぱりちゃんと一度この事件と向き合わないといけないと思わされた。

次に済州島に行ったら、その時こそは4.3平和記念館に訪れたいと思う。

本作では、生と死とそしてその狭間が描かれる。

空想と現実、そして過去と現在を複雑に行き来するため、「果たして今私が読んでいるこの場面は空想なのだろうか…?いや?さっきの部分が空想で、このパートは現実なのか?」と混乱させられるところも少なくなかった。でも、これもまたこの作品の味だと思う。

(ちなみにレビューサイトを見るとみんな同じようなことを言っていた。私の読解力がないわけではなさそうだ…。安心。)

そしてなんといっても、日本語訳を担当している、日韓翻訳界のレジェンドと言っても過言ではない斎藤真理子さんのあとがきがまた秀逸である。

4.3事件について詳しい説明もしつつ、済州島の方言を日本語に翻訳する際の苦労話や、ハンガン作家本人の解釈などについても語ってくれている。

本作中では、インソンとその両親の出身の地域がPと表されているが、実はこれは表善(ピョソン)のことらしい。私のルーツのある場所だ。とても驚いた。

私自身、自分の親族から4.3の話を直接聞いたことはないが、もしかすると(いや、島民の1割が犠牲になったというのだからおそらく)、親族の中にも犠牲者の方がいるのかもしれない。

やはり一度はこの事件ときちんと向き合わなければならない。再度胸に刻んでおく。



ハンガン作家の本は本作も含めて少し重たく難しい話が多いようだが、だからこそ深く考えさせられることも多いと思う。

光州事件について書かれた「少年が来る(소년이 온다)」もぜひ読んでみたいと思う。

いいなと思ったら応援しよう!

uri
おばあちゃんと済州島に行きたい!

この記事が参加している募集