きっかけのきっかけ 担当:寺橋佳央
しばらくぶりの更新は、「しりとり手帖」の番外編。しりとり手帖が出来るきっかけの話です。今週と来週2週に渡ってお届けします。
12/1に開催する、文学フリマに関するお知らせもあります。どうぞ最後までお付き合いください。
しりとり手帖のメンバーは5人。その内4人は同じ大学の同級生。もう1人は彼らとは全く関係が無く、年齢も違うし、生まれ育った環境も、職場も違う。お互いを永遠に知らないままのはずだった人4と1人が、5人になったのだ。
これは、しりとり手帖が出来る前、関係が無かった1人である私の話。2016年の春だった。
私は以前、職場で毎日店のブログを書いていた。それが好評で、ライターになりたいと思い、養成講座へ。この講座に刺激されまくる。
配られた生徒のプロフィールには卒業大学と勤務先があり、東京の一流大学と一流企業がズラリ。そんな人々に囲まれるのは初めての経験。この状況にお金の力だけで入ってしまったのだ(ものすごい大金ではない)。どうりでこの教室、眩しすぎると思った。それは天井から床まであるデカい窓から差し込む光だけではなかったのだ。
状況に飲まれて私は卑屈になってしまった。それがある授業で露呈する。何故書くのかを考える授業で、前に出て発表する羽目になったのだ。当時、一流大卒でも一流企業勤務でもない自分は、とてもしょぼい存在に思えていた。そのしょぼさや卑屈さを表現した言葉で、笑いを取ってしまう。
「私は、リア充死ねとか思っちゃう」
これでクラスの人に一方的に知られるようになった。面白い事を言ったつもりもないのに。
それから本格的に授業が始まるも、ブログがちょっと好評程度では箸にも棒にも引っかからない。ずっと場違いな所にいる感覚も抜けず、一方で優秀だと言われたい気持ちも止められず、焦りだけが募る日々。それが原因で体調を崩してしまった。
仕事を休み、寝ていたベッドの上で「あれ? 学校でもない習い事で、なんで具合悪くなってんの?」と急に開き直り、勝手に講座は辞めることにした。
その後も、何となく一部の生徒とSNSで繋がっていた。そこである人の「コラムを書きました」との投稿を見つける。その人は講座に通う前から既にライター。どんな内容だろうと早速読んだ。
くっ・・・・・・・そ、つまんねぇ。
だが称賛のコメントが次々届く。面白かった! 共感した! など。いやいや、どこが面白かったんだ? どこに共感ポイントがあったんだ? 理解できない状況にふつふつと怒りが湧いてくる。
この人は、ライターの仕事を得るためにものすごく頑張ったのだろう。努力もしたのだろう。だがこのコラムは、とてもつまらない。こんなにつまらないコラムなのに、名前入りでメディアに載せられる。お金も得られる。結局一流大卒で、一流企業に勤めていた人の方が、チャンスは得やすいんだ。そう勝手に解釈し悔しくて、悔しくて仕方がなかった。そして決意する。
だったら、彼らには一生かかっても出来ないことをやってやる。
そうしてコンドーム自販機を巡り始めた。同時にSNSで「今日のコンドーム自販機」の投稿も始める。
自販機巡りを始めて1年ぐらいは、悔しさを燃料にしていた。怒りなどマイナスのエネルギーは原動力にしない方が良いよ、と言われたこともあったが知ったこっちゃない。とにかく悔しさと怒りを推進力にして、自販機をガンガン巡りまくった。
月日は流れて2022年の冬。自販機巡りも続けつつ、文章を書くのも好きだったので、Zineも作った。自販機のも、そうじゃないのも作り、文学フリマに出展。少しずつ売れていき、ある女性が新刊を購入してくれた、その時だった。
「私もあの講座に通っていたんです」
あの講座とは、あの講座しかない。講座には100名近くの生徒がいた。ええっと、目の間にいる女性は…。ええっと、ええっと。私には、はじめましてなのだが…ええっと。
「すいません。覚えていません」
少しの間にぐるっと考えたが、これしか出てこなかった。
この時声をかけてくれたのが、メンバーの須田さんだ。そこから、かわかみさんとも出会い、ヤナイさん、はおさんが加わってしりとり手帖が始まっていく。
きっとこんな時、人は「人生何が起こるか分からない」と言うのだろう。だけどこの言葉は、夢を叶えたり、成功したりした人が使うと思っていた。しかも良いことを続けた人がご褒美で、そう思える体験に恵まれると思っていた。私はびびって、僻んで、怒って、一人で躍起になっていただけだ。それなのに、こんな素晴らしい出会いに恵まれるとは思ってもみなかった。眩しい教室に座っていじけていた頃の私に、大丈夫だよと伝えたくなる。
本当に人生は、何が起こるか分からないのである。
『しりとり手帖』Zine
文学フリマ東京39で販売します!
以前にもお伝えした通り『しりとり手帖』のZineを12/1(日)東京ビッグサイトで行われる、文学フリマで販売します。Zineにはゲストの皆さんの分も含め、全33本の記事を加筆修正し収録。note版とは異なる雰囲気で、新たにお楽しみいただけます。
表紙はデザイナーのはおさんによるもの。かわかみさんによるレイアウトでも、紙面に趣向を凝らしています。
noteではみな同じフォーマットですが、Zineになり手に取って見てみると執筆した12名の個性が、より豊かに感じられるはずです。これは紙の書籍でこその雰囲気です。ぜひ一人でも多くの方に『しりとり手帖』の世界観を楽しんでいただきたいと思っています。
来週は、同時期に同じ講座に通っていた須田さんSIDEのお話をお届けします。お楽しみに!