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東京タワーのてっぺんで
久しぶりに東京タワーまで飛んできた。
初めてここに飛んできたときは夜だった。
まだ飛べるようになって間もないころで、不安と焦りでやっとのことタワーのてっぺんにたどり着いた。緊張と疲労でガクガクしながらてっぺんに立ち、下を見下ろした時に声をあげてしまった。
気を失いそうに恐怖したのを覚えている。
なるべく人目につかないように夜を選んだのに、眼下に蠢く車のライトやビルの窓の明かりで自分のいる高さが予想よりはるかに高く感じられた。
落ちる。
そう思ったらどんどん恐怖が増大した。膝が笑って腰が砕けそうになる。
脂汗がどっと噴き出してきた。
落ち着け。風は受け流せる。足を踏み外しても飛べるんだから問題ない。
なるべく遠くの地平線のほうを見るように注意しながら、気持ちを落ち着かせた。耳元で轟々と鳴り響く風の音が気にならなくなるまでかなり時間がかかった。
今では飛ぶことに慣れてしまい、高所恐怖症も治ってしまった。
今日は大気があまり綺麗ではないし、空気を微振動させているので見られることもあまり気にならない。
相変わらず風が強い。耳元ででうるさいほどだ。
でも、ここからの眺めはいい。遠く富士山がかすんで見えるし東京湾が、きらきら輝いていて美しい。外国へ向かう大型客船が光の中に消えてゆく。 今日は波も穏やかで空と海が青く光っている。
いい日だ。
ここに来ると、元気をもらえる。何より大都会の人間生活のエネルギーがまわり中から立ち上ってくる。たった一人で大自然の中にいるのも気持ちがいいし、流れる川の水の一滴や木漏れ陽に輝く木の葉になったようで、清められた気がするがやはりだんだん寂しくなる。この場所は大勢の人間の発する悩みや喜び、悲しみや笑いの膨大な生命力が地表から湧き上がってくる。それが暖かい。
いつだったか、流星群が見えるという日も、ここで一人眺めていた。
スモッグで見えないかもなと思っていたが、予想よりはるかに明確に見えて言葉を忘れた。
真っ暗な空に、幾筋も尾を引いて流れる星屑たち。
願い事なんか考えることもなく、宇宙の美しさにただ感動して震えていた。
世界は不思議なもので溢れている。
自分の人生なんて小さなものだ。
でも、生きているだけで感動したり、悩んだり、喜んだりできる。
東京タワーのてっぺんで、360度のパノラマを眺めながら、今日も別に何もなかったけど、生きているだけで楽しいと思った。
絵 マシュー・カサイ「東京タワーのてっぺんで」水彩・ペン