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『熱帯』を読み終える日

 あぁ、帰ってきた。

 むせ返るほどの草木の香り、遠くに聞こえる潮騒、冷たくて甘いコーラ、海を走る列車。
一転、雪の降る町、節分祭の喧騒、珈琲の香り、小さな部屋。
 わたしはその場所へ行ったこともないし、色や香りも想像でしかない。けれど、『熱帯』の最後のページをめくり終えるまでわたしは、あの世界の中を旅していたのだ。

 窓の外、夜は深くなり、机の上に置いた紅茶はすっかり冷めていた。
 

#わたしの熱帯

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