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まだ泣きたくなる日がある/桜色

前の仕事を辞め、すぐに花屋の仕事が始まった
3月の花屋は送別の花で激務のため、前の仕事の休みの合間も花屋に行っていたので、あの時合わせて10連勤はしていた
身体はくたくた

それでも、役に立てていることがとても嬉しかった

花屋での日々

勤めていた花屋はメイン制作スタッフ(職員)と制作はしないで他のお手伝い業務スタッフ(電話対応、配達、掃除など雑務。パートタイマー)に分かれていた

私は制作スタッフ見習いという立場で仕事を始め、パートスタッフがお店にいない時はどちらも全てこなすことになった
勤務時間は9時から19時 週4勤務希望だったが、とりあえず週5でお願いと言われ、のんだ。早く仕事に慣れなくては。と思った

奈美子ちゃん

花屋には季節の折々、多忙な時にヘルプに入っていた。奈美子ちゃんと初めて会ったのはヘルプに入っていた暮れ
裏方制作スタッフとして仕事に行っていた私はストッカー(花を入れて置く冷蔵室)の前で泣きそうな顔をして立っている彼女に会った

年末はお正月飾りやお花を買い求めるお客様が多い。注文も多い
忙しくなるとメインスタッフは夜遅くまで残って制作してるので、メンタルも削られギスギスした殺伐とした雰囲気が強くなる

きっと、なにか強く当たられちゃったのかな?思わず、
「大丈夫?」
と声をかけていた
はじめまして。でもなく、大丈夫?と

お互い、会ったことはなくても存在はタイムカードでわかっていたので
「ようさんですよね、大丈夫です。私、もう少しであがるのでようさん頑張ってください」
と言って、店内に戻って行った

私は本職のあとヘルプに行っていたので、奈美子ちゃんとはいつも帰った来たのすれ違いだった
同じ性でも守ってあげたくなるような容姿の、可憐な雰囲気の奈美子ちゃんは新婚さんで、結婚式のブーケをこのお店にお願いして感動したのがここで働く動機になっのだと話していた

このあと、花屋で働き始めるまで奈美子ちゃんとは会っていなかったのだが、送別の制作の時一緒になった

一生懸命お客様の話を聞き、それゆえに電話対応も注文を取るのもとても時間がかかっていた

なんとなく感じる冷たい空気感
なぜか私が焦ってしまったのを覚えている

4月になって2週目のはじめのころ、奈美子ちゃんと勤務が重なった
3月4月の歓送迎の注文が落ち着いて、母の日の注文週間が始まる少しの間、最少人数で勤務を回していたから奈美子ちゃんの出勤がなかったのだ

朝から元気がなく、笑顔も少なく、声も小さい奈美子ちゃんの様子に、心配になった

「仕事、辛いんです。私、何にもできなくて…」
外の植物の水やりの最中、ぼそっと呟くように奈美子ちゃんは言った

「そんなことないよ、私頼りにしてるよ、いっしょに頑張ろうよ」
と私は答えた
そう答えながらも、
そうなのかな
奈美子ちゃんに必要な答えではなかったんじゃないかな
と言ったそばから何度も思った

16時あがりの奈美子ちゃんが帰ったあと、私は配達に出た

勤めはじめに咲き出した桜は、いつのまにか満開を迎え、散りはじめ道路をあちこち桜色に染めていた

あの時、ちゃんと見れなかった桜
今年は青空の下会えた
美しいものを美しいと思える気持ち
忘れずにいたい

あの時の奈美子ちゃんを思う
今の私ならなんて応える?

辛いなら辞めていいんだよ
花屋はここじゃなくても他にもあるよ
傷つかなくていいんだよ

あの時の私は
仕事を始めたばかりで、覚えることでいっぱいいっぱいで、奈美子ちゃんたちパートスタッフがいないとその仕事も全部こなさなくてはならなくて、辞められたら困る 辛い 私に負担が来る 大変さを共感できる人がいなくなっちゃうの嫌だ
と心の中で思っていたように思う

自分勝手だなぁ

今なら
大丈夫 逃げていいんだよ
と言ってあげたい

つづく

前編はこちらです

思いがけずたくさんの人に読んでもらえて嬉しいです
あなたの糧になりますように

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