星と鳥と風~31 意思の中心
車から降りてみると
そこはもうとっくに使われていないであろう
【旧林道】
で
一見水晶など
どこにも見受けられない場所だった
見受けられはしなかったが
【ここに確実にある】
という
一ミリの確証もない確信が
私の心の中を渦巻いていた。
私は
林道脇に車を停めて
林道の中を歩いてみることにした。
入り口には
【夫婦の山神様】
が、祀ってあったが
女の神様の石像は倒れ
周りにはゴミが散乱し
杜撰な有様だった。
私は軽くゴミ拾いをして
泥で汚れた盃を
水と手で、簡単に洗い
そこに持ってきた【酒】を注いで
手を合わせた。
*神様、この子に自然の神秘を見せてあげて下さい*
中に入って
色んな岩や石を見て回ったが、水晶らしきものは
どこにも見当たらなかった。
道路横の壁は、岩の塊と、気の根っこで出来た断崖絶壁の壁であったのだが
私はふと
どうしてもその壁を
登りたくなった。
今思うと
ゾッとするようなその壁。
よく登ろうと思ったものだ。
ハーネスを使うような急な壁
(帰りは本当に死ぬかと思った)
*行きは良い良い
帰りは恐い*
木の枝しか頼りのない中
私は
枝と枝を伝いながら10分程かけて登り
とある大きな岩盤にたどり着いた。
(落ちたら確実に死ぬ)程の高さにある岩盤に触れると
【ドキドキ】
と
胸が脈を打った。
その岩盤には大きなクラックが2本入っていたのだが、私はそのクラックの隙間を覗くためにiPhoneのライトの明かりを付けた。
すると
【中に直径一ミリ程の小さな結晶が生えていた】
しかもクラックの奥にも無数に確認出来た。
【!!!】
私は興奮して
一瞬目眩がした。
よく見ると
自然の中の岩のクラックの間に
びっしりと生えた水晶クラスター
【クラスターとは、英語で「群生」を意味する言葉。その名の通り、六角柱状の水晶の結晶が群生したもの、水晶の単結晶がいくつもまとまっているものを指す。石の種類ではなく原石のことで、長い年月をかけて母体となる石英の上で成長した水晶をそのまま取り出した形状をしている】
私はその美しさに
しばし言葉を失っていた。
それに、よく見ると、岩盤の中、地中、至る所に水晶の脈動が波打っていた。
こんな自然の中に、どうしたらこんなに美しい
脈動が、そして結晶が産まれてくるのか。
初めて味わうとてつもない自然の神秘が
確かに私の目の前に存在していて
その様に
思考が追いつかないので
脳は疲れかけていた。
【一旦落ち着こう】
はやる心も落ち着かせるために、木の枝に腰掛けて、持ってきた湧き水を飲みながら、巻きタバコに火を着けた。
「それにしても凄い光景だな」
欲が出てきた私は、10分ほどで休憩を止め
その石を取り出そうとしたが、何故か取ってはいけない気がして、止めた。
【いいや、こんな素晴らしいものを見れただけでもラッキーだ】
*拝見させてくれてありがとう*
そう思って私はまた、この急すぎる崖を
命を懸けながらまた林道へと引き返した。
降りると
1人のおじさんがいて
私に喋りかけてきた。
「あんた、あんな崖で何してたの?
ロッククライミング?」
なんと答えていいか分からず
「流木を拾いに来ました!」
と、ウソを答えた。
(おじさん、ごめんね)
するとおじさんは
ここは昔
【水晶谷】
と呼ばれた場所で
水晶も沢山採れた。
でも大昔に
人が大量に採取したので
あまり大きいものは
無いかもしれないが
もしかしたら水晶が取れるかもよ?
という事だった。
何の気なしに入ったこの場所。
風とクリスタルに誘われて
曲がった先に見つけたこの場所は
文献で見たまさにその場所であった。
私は、水晶を見つけれた事も
勿論嬉しかったが
それよりも
ほぼ
ノープランでこの場所に辿り着いた
【奇跡】
に、心から感謝した。
*あんたの心はクリスタル*
*心で望めば、いつでも兄弟達に会えるのよ*
*覚えておきなさい*
と
風が囁いた